Blaine Kaltman, Under the Heel of the Dragon: Islam, Racism, Crime, and the Uighur in China
Blaine Kaltman, Under the Heel of the Dragon: Islam, Racism, Crime, and the Uighur in China, Ohio University Press, 2007
中国においてマイノリティーたるウイグル人は漢人社会への同化圧力についてどのように感じているのだろうか? 本書のタイトルには、龍=漢人によってウイグル人が踏みつけにされているという意味合いがある。ウイグル人・漢人、それぞれ100名前後ずつ、計200名強への面接調査をもとに両者の相互イメージの懸隔を明らかにしようとした社会学的なモノグラフである。調査地点はウルムチ(ウイグル人34名、漢人41名)・北京(ウイグル人25名、漢人33名)・上海(ウイグル人26名、漢人26名)・深圳(ウイグル人7名、漢人25名)。都市部へ流入したウイグル人の就職環境や犯罪等の摩擦についての考察が中心となっている。
巻末にある各質問項目に対する回答の集計表を眺めると、北京在住のウイグル人は他地域のウイグル人とは違って、漢人の回答に近い傾向が明瞭に表われているのが目を引く。北京に住むエリート、さらに二代目・三代目となったウイグル人は言語面でも生活習慣面でも漢人とうまく付き合っているので中国社会に対する不満が少ない。
逆に言えば、言語面での不利が他地域のウイグル人に様々な障壁をもたらしていることが浮き彫りになってくる。標準中国語が流暢でなければ敢えてウイグル人を雇用しようという漢人は少ない。新疆ウイグル自治区以外に住むウイグル人の職業は食料品関係にほとんど集中している。もの珍しさのせいかウイグル料理を好んで食べる漢人は多いので、ウイグル料理関係の食材店や食堂は何とか職業として成り立つらしい。ちなみに、ウイグル人は中華料理を食べたがらない。戒律上の禁忌に触れるものがあるからだろう。北京在住である程度まで漢人社会に同化したウイグル人でも「中華料理は好きですか?」という質問にYesと答えた人の割合は低い。
漢人はウイグル人に対して、獰猛・非理性的・不潔・粗野・開発に無関心といったイメージを持つ傾向がある。ウイグル人は標準中国語を学ぶ努力をしない、怠惰である、それはイスラームのせいだと決め付ける回答も漢人には多い。そうした漢人からの人種偏見的な眼差しにウイグル人も敏感で、自分たちの民族性やイスラームが見下されているとひそかに不満をもらしている。敢えて漢人との接触を求めようとはせず、分離して暮らす傾向が強まってしまう。
ウイグル人の犯す窃盗、麻薬など非合法品販売といった犯罪について、「漢人にだって貧しい人はいる、ウイグル人の犯罪が目立つのは、貧しいからではなく、彼らの社会がおかしいからだ」という漢人社会学者のコメントが紹介されていた。これは極端だとしても犯罪と結びつけるイメージでウイグル人を見ている漢人は多いようだ。ウイグル人による犯罪は主に漢人相手のケースが多いという。それは、漢人の方が金持ちだからという理由の他に、漢人から抑圧されていることへの怒りの表現だと語るウイグル人のコメントもあった。
本書は、社会的流動性=機会均等による地位上昇のサイクルにうまくのることができず希望の持てない状況は犯罪に走りやすいという社会学理論(文化的目標と制度的手段との乖離→アノミー→犯罪・非行等の逸脱行動、というロバート・マートン「社会構造とアノミー」の理論を援用している)に理由の一つを求めつつ、さらに加えて、中国社会全体に行き渡ったウイグル人への人種偏見に対する反発という側面があることを指摘する。
現実問題として考えるとウイグル人の社会的地位上昇を図るには、標準中国語学習の機会均等を保障することが必要条件となる。しかしながら、中国政府としては少数民族にもきちんと配慮しているという姿勢を対外的にアピールするため(ウイグル人のためではなく)、ウイグル語教育を維持せねばならない。そして何よりも、中国語に重きを置いた教育システムはウイグル人としての民族的アイデンティティーを消し去ってしまうリスクと隣りあわせである。言語面での不利をそのままにして漢人社会への同化圧力が強まっている状況により、ウイグル人は社会的底辺に追いやられている、すなわちunder the heel of the dragon=“龍によって踏みにじられる”結果をもたらしていることが本書から窺える。
著者は標準中国語に堪能ではあるがウイグル語は苦手らしいこと、インタビュイーの選定にどの程度の信頼性があるのか私には検証する術がないことなど気にかかるところはあるにしても、中国社会内部からの声を汲み上げている点では貴重であろう。
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