レドモンド・オハンロン『コンゴ・ジャーニー』
レドモンド・オハンロン(土屋政雄訳)『コンゴ・ジャーニー』(上下、新潮社、2008年)
西欧近代特有のロジックが全く通用しない異世界──そんなイメージでアフリカ大陸を捉え、その中に放り込まれた人間が、虚飾の剥ぎ取られた己自身をみつめていくというタイプの小説がある。たとえば、セリーヌ『夜の果てへの旅』とか、コンラッド『闇の奥』(ちなみに、この小説を翻案して舞台をベトナム戦争に置き換えた映画がコッポラ『地獄の黙示録』)なんかがそうだろう。
本書もそんなタイプという印象を受けたが、雰囲気としてこれらとは全く正反対に陽性だ。著者のオハンロンはイギリスの紀行作家。子供の頃、長い尾羽を垂らして飛ぶ鳥の姿を図鑑で見て以来、アフリカの動物に憧れを持っていた。コンゴの奥地の湖に恐竜が生き残っているという話を聞き、アメリカ人の生物学者ラリーと一緒に、現地の科学者マルセランの案内で密林の中へと分け入る。
冒頭、予言者の婆さんに占ってもらうシーンから、読者は超現実的な異世界へとたちまち取り込まれてしまう。虫やら疫病やら現地の不可解な慣習やらで、二人の白人は疲労困憊。彼らが目の当たりにしているものが夢かうつつか分からなくなってくる。写真も挿入されているから実体験に基づくノンフィクションなのだろう。しかし、何となくマジック・リアリズムっぽい、と言うのが適切かどうかは分からないが、現実世界の境界線が崩れてくるような不思議な感じがとても魅力的で一気に読み進んでしまった。
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