ロバート・ケーガン『歴史の回帰と夢想の終わり』
Robert Kagan, The Return of History and the End of Dreams, Alfred A Knopf, 2008
『歴史の回帰と夢想の終わり』という何だかすごそうなタイトルにひかれて手に取った。
冷戦が終わり、グローバリゼーションの進展に伴って政治的にも経済的にも協調できる世界秩序が成立する──そんなのは夢想に過ぎないと本書は一刀両断、国家的な威信をかけて影響力の伸長を図るという行動は人間の本性に根ざすもので、パワー・ポリティクスの論理は今後も続くと主張する。とりわけ、中国・ロシアといった独裁国家やイスラム過激派などによって民主主義国は脅威を受けている、各地で紛争の可能性がある以上、アメリカの軍事的プレゼンスは必要だという話につなげてくる。
国際政治上のアクター=国家それぞれの内在的性格の描写が弱いという印象を受けた。簡潔と言えば聞こえはいいけれど、果たしてどこまで説得力を持つものやら。むしろ、パワー・ポリティクスへの回帰という前提ありきで、そこに合わせて個々の国々の性格付けを行っているという恣意性の疑いも排除できない。国際政治学上のリアリズムとは、いわゆる性悪説に立って勢力均衡を図る点に特徴がある。ただし、個々の国の描写があまりにも雑に単純化されてしまうと、理論としてはリアリズムであっても、認識というレベルにおいては必ずしも“リアル”とは言いがたい、そんな矛盾が読みながら気になってしまった。
パワー・ポリティクスという一つの観点から現状はこう整理できるという見取り図を提示してくれている点では参考になる。だけど、鵜呑みにしてはいかんでしょうな。アメリカ政権内部でのネオコンの影響力低下は見る影もないわけで、ケーガンの前著Of Paradise and Power刊行時とは違って、アメリカの出方を占う上での参考にもならんだろうし。
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