工藤幸雄『ワルシャワ物語』
工藤幸雄『ワルシャワ物語』(NHKブックス、1980年)
都市を描くということは、その街並に刻み込まれた記憶を掘り起こすことにつながる。現在抱えている問題がその掘り起こしに投影され、記憶と現在とが絡み合いながら街の物語がつむがれていく。
ポーランドにおける社会主義政権の支配は他国に比べればまだ緩やかなものだったのではないかという印象が私などにはあった。しかし、自由は制限され、食糧難のあえぎは絶えなかった。何よりもソ連という重石の存在は、ロシア=ソ連やドイツという東西の大国に翻弄されてきたポーランドの歴史において常に憂鬱なものであった。本書では歌が頻繁に引用される。そこに込められた哀感は、歴史への複雑な思いをヴィヴィッドに喚起させる。
ワレサたちが連帯を結成した時期の前後に本書は刊行されている。その後の展開は当然ながら反映されていないので、どうしても語りが古く感じてしまう。民主化・経済自由化に伴う混乱、EUへの加盟などその後の展開を踏まえると、また違ったワルシャワの姿を語ることになるのだろう。そこに興味がひかれる。
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ttp://www.yomiuri.co.jp/national/culture/news/20080705-OYT1T00866.htm
東欧文学の紹介者、詩人の工藤幸雄さんが死去
ポーランド文学者で翻訳家、詩人の工藤幸雄(くどう・ゆきお)さんが5日、肺がんで死去した。
83歳。告別式は14日午前11時、東京都調布市布田2の34の6セレモニアル調布。
喪主は長男、堀切万比呂(まひろ)氏。
中国・大連生まれ。東大文学部卒。共同通信外信部記者を経て
1967年から7年間、ワルシャワ大講師。
帰国後、多摩美術大教授。ポーランドの労働組合「連帯」を支援し、
東欧文学の日本への紹介の第一人者として知られた。
「ブルーノ・シュルツ全集」の翻訳で99年、読売文学賞。
著書に「ぼくの翻訳人生」など、訳書に「シュルツ全小説」、
アダム・ミツキエヴィチ「パン・タデウシュ」、詩集に「不良少年」など。
(2008年7月5日23時28分 読売新聞)
投稿: 通りすがりの者 | 2008年7月 6日 (日) 00時16分