ロバート・ゲスト『アフリカ 苦悩する大陸』
ロバート・ゲスト(伊藤真訳)『アフリカ 苦悩する大陸』(東洋経済新報社、2008年)
アフリカの問題は日本にとって縁遠いせいか、学術的な文献はそれなりにあるにせよ、気軽に手に取れる本が意外と少ない。本書の著者はジャーナリスト。アフリカ各国を歩き回り、具体的なエピソードをふんだんに盛り込んだノンフィクションという形なので、現在のアフリカが抱える問題を知る上でとても読みやすい。
色々な問題がある。たとえば、石油やダイヤモンド(いわゆる、ブラッド・ダイヤモンド)など天然資源の問題。政府軍も反乱軍もこの利権を狙う。いったん天然資源の利権を確保してしまえば、その金で兵士を養い、武器を買う。紛争が終わらない。
また、エイズの問題。エイズに関する知識やコンドームの利用を普及させることが必要なのはもちろんだが、それは本質的な問題ではない。貧困にあえぐ中、生きてたってロクなことがないという捨て鉢な気持ちになってしまうと、刹那的な快楽に身を委ねようとするのを押しとどめる動機は働かない。
あるいは、政治指導者の問題。現在、南アフリカではアフリカ民族会議(ANC)が政権を担当している。かつては反アパルトヘイト運動で全世界から称賛されてきたANCだが、アパルトヘイト廃止という目的が達せられ、いざ政権の座についてみると、今度は汚職や経済失政など統治体制のまずさに対してマスコミからバッシングを受ける。彼らは称賛されるのが当たり前と思っていたので、なぜ西側のマスコミは手のひらを返したような扱いをするのかと逆ギレしてしまう。白人の植民地主義を批判するアジテーション演説の得意な政治家がアフリカには多いが、それだけでは建設的な解決策は出てこない。
事業を起こすにしても、投資するにしても、どんな手順を取ればこういう結果になるという一定の予測可能性が担保されていないと何の計画も立てられない。妙な独裁者が気まぐれで法律をちょいちょい捻じ曲げてしまうと、経済活動も停滞してしまう。登記制度によって所有権を確立させたり、取引を法的に保護したりという意外と基礎的な部分で法整備がなされていないことがアフリカ経済の大きな障碍となっている。あるいは、でこぼこ道や警察官への賄賂のせいで流通コストが膨大となり、結果として提供される商品の価格が上昇してしまうという問題も紹介されていた。
逆に言えば、こうした問題を一つ一つクリアしていけば、将来の可能性も十分にあるということだ。たとえば、ウガンダでは、若年層への性教育をきっちりと行った結果、エイズ被害は減少傾向にあるという。制度的・人為的な問題が大きいのであれば、問題は山積しているにしても、悲観する必要はない。
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