「つぐない」
「つぐない」
子供心というのは無邪気なだけに、時に残酷な仕打ちを平気でしてしまう。
1935年、のどかな田園風景の広がる邸宅、ある夏の日から物語は始まる。早熟な文才を示す少女ブライオニー(シアーシャ・ローナン)は、ロビー(ジェームズ・マカヴォイ)への憧れの気持ちを秘めていた。彼は使用人の息子だが、豊かな才能が認められ、奨学金を受けてケンブリッジに学んでいる。やがてブライオニーは、彼と姉のセシリア(キーラ・ナイトレイ)との、子供心に不潔な関係に気づいてしまった。そんな時に事件が起こる。「犯人はロビー、私はこの目で見ました」──ブライオニーの証言により、ロビーは無実の罪で刑務所に送り込まれてしまった。人生の歯車が狂ってしまったロビーとセシリア。ブライオニーが自分のしでかした罪深さに気づくにはもう少し時間が必要だった。そして1939年、第二次世界大戦が始まった。三人の運命も、この時代の厳しい波に翻弄されることになる。
ロビーとセシリアが戦時の混乱の中で再会できたとするフィクションを組み立てたのは、作家となったブライオニーの単なる自己満足と言ってしまえばそうかもしれない。しかし、物語というのは、いわば納得の形式だ。自分の心に深く突き刺さったトゲを何とか彼ら二人の思い出と結びつけようとした内省には、そこにもまた一つの真実がある。だからこそ、観る者の心を打つ。
戦時下の物々しいロンドンの街並。瀕死の人々がうめき声をあげる病院。とりわけ、フランスに出征したロビーの視点で捉えられた、ダンケルクの撤退における無残にも荒んだ光景を写し取った長回しの映像が圧巻だ。タイプライターなどの効果音とうまく組み合わされた音楽が重厚に、時に切なく響きわたり、映像の力を引き立てる。品のよい文芸大作を観た充実感を久しぶりに味わった。
【データ】
原題:Atonement
監督:ジョー・ライト
原作:イアン・マキューアン(『贖罪』新潮文庫)
2007年/イギリス/123分
(2008年5月2日レイトショー、新宿、テアトルタイムズスクエアにて)
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