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2008年5月 1日 (木)

「大いなる陰謀」

「大いなる陰謀」

 邦題をみるとポリティカル・サスペンスのような印象を受けるが、実際にはかなり生真面目なテーマを問いかける映画だ。三つのシーン、六人の登場人物。事態が同時進行する中で彼らそれぞれがかわす会話を通して、対テロ戦争の泥沼に引きずり込まれつつあるアメリカの現在を描き出そうとしている。

 ジャーナリストのジャニーン(メリル・ストリープ)は共和党のアーヴィング上院議員(トム・クルーズ)の独占インタビューに成功。将来の大統領の椅子を狙う野心家である。現状打開を図るためアフガニスタンで新たな作戦を発動させたと語るアーヴィングに対し、ジャニーンは厳しい質問をたたみかける。彼女の舌鋒をかわしながらアーヴィングは、マスコミはリベラルな正義を標榜しつつも所詮は風見鶏にすぎないじゃないかと冷笑する。

 その頃、アーヴィングのイニシアティブで始まった作戦により、アフガニスタンで一機のヘリコプターが出動した。ところが、敵の攻撃を受けて二人の兵士が転落。彼ら二人(デレク・ルーク、マイケル・ぺーニャ)のうち一人は重傷。刻々と迫る敵の気配に怯えながら二人は互いに励まし合う。一人は黒人、一人はヒスパニック、大学のクラスメイトだ。貧しかった彼らは除隊後の復学・奨学金を目当てに、そしてアメリカを変えるためにはまず現場を知りたいという情熱で軍隊に志願していた。

 同じ頃、彼らの恩師だったマレー教授(ロバート・レッドフォード)は、出席率の悪い生徒のトッド(アンドリュー・ガーフィールド)を呼び出していた。頭の回転は早いが、現実の問題に対してシニカル、今風な彼に向かい、教授は軍隊に志願した二人の学生のことを語る。教授自身はかつてヴェトナム反戦運動に関わったことがあり、二人を何とか思いとどまらせようとしたが、彼らのひたむきさに何も言えなかったという。大学のキャンパスを覆うシニカルな無関心を前にして、教授のリベラルな正義感は空回り、行き詰ってしまっている困惑が浮き彫りにされている。

 原題は“Lions for Lambs”、間抜けな子羊を支持するライオン、子羊に率いられたライオン、といった意味合いになるのだろうか。政治、軍事、マスコミ、教育、そしてこれらの背景をなす社会的空気を手際よく整理されているあたり、脚本がよく練りこまれていることに感心する。アメリカはだからどうのこうのという短絡的な結論に結びつけるつもりは私にはない。この映画の多面的な構成からうかがえる“民主主義”といわれる制度の持つ幻滅的な側面と、しかし同時に理想を持つべき側面、二者択一ではなく、その両方を同時に引き受けるべきなのだろう。

【データ】
監督:ロバート・レッドフォード
脚本:マシュー・マイケル・カーナハン
2007年/アメリカ/92分
(2008年4月29日、渋東シネタワーにて)

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