ロメオ・ダレール、伊勢﨑賢治『戦禍なき時代を築く』
ロメオ・ダレール、伊勢﨑賢治『戦禍なき時代を築く』NHK出版、2007年
ロメオ・ダレールはルワンダにおける平和維持軍司令官として大虐殺を目の当たりにし、その時の無力感と自責の念から平和構築の必要を訴える活動を続けている(→ロメオ・ダレール『悪魔との握手』の記事を参照のこと)。伊勢﨑賢治は東チモール、シエラレオネ、アフガニスタンでDDR(武装解除、動員解除、社会再統合)の指揮を取った経験を持つ(→伊勢﨑賢治『武装解除』の記事を参照のこと)。NHK・BSの番組での二人の対談(私は未見)をまとめた短い本だが、現場を踏んだ人たちならではの具体的な話は傾聴に値する。
ルワンダのようにちっぽけな国には戦略的にも資源的にも見るべきものがないという判断基準で介入をためらうのは、そもそも人命の平等、“人権”という概念に反するというのがダレール将軍の考え方だ。国際社会には“保護する責任”がある。これは、内政不干渉の原則に基づき国家主権の不可侵性を尊重し合いながらパワーゲームを展開するという近代的な国際政治観を乗り越えようという方向に進む。20世紀初頭のオスマン帝国によるアルメニア人虐殺や、その後のナチスによるホロコーストをはじめ、国際社会がジェノサイドを目の当たりにしながらも国家主権という壁にぶつかって介入できないというもどかしさを抱いて以来、現在に至るも提起されつつある問題意識である(たとえば、Samantha Power, A Problem from Hell: America and the Age of Genocide, Harper Perennial, 2007を参照)。
ダレール将軍は中堅国家(ミドル・パワー)の連携を提唱する。つまり、日本、カナダ、ドイツ、オランダ、北欧諸国、場合によってはインドといった国々が共同歩調を取って、超大国、とりわけアメリカに圧力をかけること。単なるアメリカ批判に意味はない。アメリカの力がなければできないことがたくさんある。しかし、そのアメリカのスーパーパワーが単独行動主義に突っ走らないように牽制し、軌道修正させること。
“人間の安全保障”という概念がカギとなる。実は、日本でも小渕政権の時に外交課題の柱として大きく打ち出されていた(アマルティア・セン『人間の安全保障』集英社新書、2006年でも引用されている)。こうした方針は、リアリスティックな外交路線と決して矛盾するものではない(→添谷芳秀『日本の「ミドルパワー」外交』の記事を参照のこと)。
ダレール将軍の著書Shake Hands with the Devilでは、国連憲章第6章に基づく停戦監視に任務を限定されたPKOでは対処できないほどに現在の紛争の性質が大きく変わりつつあるという問題意識が読み取れる。“保護する責任”においては、場合によっては軍事介入も必要となる。しかし、日本は現在でも、自衛隊は違憲か否かという不毛な神学論争に絡め取られて、現実に何が出来るのかという視点が抜け落ちていると伊勢﨑氏は批判する。
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