「四月物語」
「四月物語」
会社帰りの夜、近所の桜並木を通った。花びらがハラリと落ちるのを見て、街灯に照らされたその淡いピンク色にしんみりと感じ入る。
岩井俊二監督作品の中で私が一番好きなのは「四月物語」かもしれない。主役の楡野卯月(松たか子)は北海道から東京の大学に進学する。引越の場面から物語は始まるのだが、桜の花が舞い落ちるシーンが印象的だ。演出は少々大げさではあるが、岩井独特の映像美学で映し出されるとやさしくおだやかに目になじむ。
入居直前の空っぽの部屋。戸惑いを抱えつつ歩く大学のキャンパスの喧騒。自転車に乗ってめぐる、これから住む街のたたずまい。淡い光の差し込む本屋さんの風情がなかなか良い。新生活が始まるときの不安と期待の入り混じった新鮮な感覚が一つ一つのシーンから浮かび上がってきて、あたたかく感傷的な気分についついひたってしまう。
あこがれの先輩に出会うという青春小説的なストーリーや、汚さを全く排除してあまりに整いすぎた映像構成がかえって嫌味に感じられる人もいるかもしれない。それでも、初々しさの理念型(かたい言い方だな…)みたいのが描かれているところが私は好きで、時折思い出しては観ている。
松たか子の地味に華のある表情(矛盾しているが)はこの映画の雰囲気によくはまっている。ピアノがメインの音楽は映像と密接にリンクしてミュージック・ビデオといった趣きで、これがまた良い感じ。
【データ】
監督・脚本:岩井俊二
出演:松たか子、田辺誠一、他
1998年/68分
(2008年4月1日、DVDで)
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