「牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件」
「牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件」
1961年、台北。戦車の隊列が轟々と地響きを立てて進み、演習場での銃砲音はあたりをやかましく騒ぎ立てる。“大陸反攻”を呼号する国民党軍事政権の影が日常の市民生活にまで落ちる殺伐とした雰囲気。
スー(チャン・チェン)は中学生。父親は大陸出身の知識人、融通に欠けるが生真面目な好人物だ。接収された日本式家屋に暮らす。隣の八百屋からは日本語の歌謡曲が聞こえてくる。店のオヤジさんは「前は鉄道局に勤めていたがクビにされたんだ」と言うから、蒋介石と共に台湾に流れ込んだ外省人に職を奪われたのだろう。スーの父親は公務員とはいえ生活が苦しく、しかも秘密警察の査問を受けてしまった。日々の生活につきまとう不安。親たちの困惑を目の当たりにしているせいか、少年たちは徒党を組んで抗争に明け暮れている。
映画の初めと終わりではラジオの大学合格者発表放送が流され、受験競争の厳しさもほのめかされる。殺伐と暗い社会、不安定な生活、学校の管理教育、そして様々な不安に押しつぶされそうになりながら揺れ動く多感な少年期。
同じ学校に通う美少女ミン(リサ・ヤン)に振り回されるスーの戸惑いは、純情であるだけに痛々しい。男をとっかえひっかえするミンの振る舞いは一見すると裏切りなのかもしれない。しかし、男というものを見切ってしまった、14歳にしてはアンバランスな彼女の態度には、スーの幼い純情に他の人とは違う何かを期待していたふしもうかがえる。
実話に基づく。14歳の少年がガールフレンドを殺してしまったという事件は当時としてはセンセーショナルだったらしく、強く印象付けられたエドワード・ヤンはいつか映画化したいと考えていたそうだ。軍事政権の暗い影、日本統治時代の名残りを留める街並、アメリカ文化への憧れなど、1960年前後という台湾の一時代を映像で描き出しているところも興味深い。
【データ】
英題:A Brighter Summer Day
監督・脚本:エドワード・ヤン(楊徳昌)
1991年/台湾/188分
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