「アメリカを売った男」
「アメリカを売った男」
FBIで下積み中のエリック・オニール(ライアン・フィリップ)は何とか捜査官になりたい、認められたいと焦っていた。ある日曜日、上司から突然呼び出され、新設された情報管理部の責任者ロバート・ハンセン(クリス・クーパー)のアシスタントとなるよう命じられる。ハンセンには性的倒錯者としての不品行があるため、彼の言動を逐一記録してレポートせよとのこと。
出世につながらないと不満タラタラのオニール。ハンセンのとっつきにくさに辟易しながらも、彼の生真面目な態度を見ているうちに徐々に敬意が芽生えてきた。ハンセンは誤解されている──そう思ったオニールが上司に抗議したところ、彼はソ連・ロシアに国家機密を売り渡している二重スパイなのだと知らされる。
相手を試すように一つ一つの言動や表情を巧みに操るハンセンの複雑なパーソナリティー。演ずるクリス・クーパーの存在感が圧倒的だ。サスペンス・ドラマとしての緊張感が全編に張りつめているが、それ以上に、誰も信じることのできないスパイの孤独を浮き彫りにしているところに興味がひかれる。
彼が国を売ったのはなぜなのか? 金のため、と言ってしまえれば話は簡単だが、そういうわけではない。仕事のモチベーションには、誰かから認められたいという側面が意外と大きい。そのためには、横の人的つながりが必要だが、スパイはそれを絶たなければならない。自己価値確認の意識が誇大妄想的に暴走して、自分が大国を手玉に取っているという全能感に一つの拠り所を求めていたと言えるだろうか。しかしながら、それも所詮は想像に過ぎず、映画中で彼自身がつぶやくように、動機など言葉でまとめても無意味なのかもしれない。
【データ】
原題:BREACH
監督・脚本:ビリー・レイ
2007年/アメリカ/110分
(2008年3月15日、日比谷、シャンテ・シネにて)
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