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2008年3月13日 (木)

伊藤千尋『反米大陸』

伊藤千尋『反米大陸』(集英社新書、2007年)

 20世紀初頭、セオドア・ローズヴェルト大統領の“棍棒政策”以来、ラテンアメリカ諸国はその勢力圏下に入り、“アメリカの裏庭”と呼ばれた。アメリカと結びついた特権階層に対する不満から下層階級は反米意識をたぎらせており、アルゼンチンのペロンのように民族主義という形を取るにせよ、キューバのカストロやチリのアジェンデのように社会主義という形を取るにせよ、いずれも反米大衆運動のヴァリエーションとして考えることができる。

 こうした趨勢が最近再び顕著となっている。筆頭格と言うべきベネズエラのチャべス大統領にはペロン的な民族社会主義の雰囲気がある。エクアドルのコレア大統領、ボリビアのモラレス大統領もチャべスと共同歩調を取る。老舗のキューバではカストロが引退したとはいえ権力は弟のラウルに継承された。ニカラグアではサンディニスタ民族解放戦線のオルテガ大統領が復活している。ブラジルのルラ大統領、アルゼンチンのキルチネル大統領、チリのバチェレ大統領、ペルーのガルシア大統領などはむしろ中道左派というべき穏健な立場だが反米意識では共通する。親米派はコロンビアくらいのものか。

 本書は中南米に広がる反米意識の波の歴史的背景を紹介してくれる。反政府ゲリラ支援、経済封鎖、クーデター支援、場合によっては軍事介入などアメリカはあらゆる手段を取って中南米諸国の政治に介入してきた。アメリカは自らの正義を誇張するとき「リメンバー○○」というスローガンを掲げるが、テキサス併合時の「アラモ砦を忘れるな」にしても、米西戦争時の「メイン号を忘れるな」にしても、立場が異なれば侵略の正当化に過ぎなかったという指摘が興味深い。「9・11を忘れるな」と言っても、チリにとってこの日はアメリカのテコ入れを受けたピノチェト将軍のクーデターによってアジェンデ政権が倒された日にあたるというのも皮肉なものだ。

 アメリカによるラテンアメリカ諸国への干渉のやり口が具体的に分かる点で本書は有益ではある。ただし、「アメリカはこんな悪いことをしてきた」という感じに並べ立てるだけ。これといった分析視角が見えてこないので、下手するとアメリカの陰謀という話で終わりかねない。これでは建設的な内容とは言いがたい。

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