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2008年3月26日 (水)

魚喃キリコの作品

 ミニシアターでかかるタイプの映画をよく観る。日々の生活の中でふとゆらめく感情の動きをすくい取った感じの日本映画が好きだ。最近は、マンガを原作とした作品が結構多い。

 魚喃(なななん)キリコの名前を最初に意識するようになった作品は『strawberry shortcakes』(祥伝社、2002年)だ。矢崎仁司監督による同名映画(2006年)を観たのがきっかけだった。映画版のストーリーはだいぶアレンジされていたが、キャラクターの性格付けは基本的には変わらない。イラストレーターとして売り出し中だが過食症に苦しむ塔子(岩瀬塔子=魚喃キリコ自身)、塔子とルームシェアリングをしているOLのちひろ(中越典子)、昔からの友人への想いを秘めながらデリヘル嬢の仕事をしている秋代(中村優子)、前向きに妄想癖のある里子(池脇千鶴)──四人の女性の姿を通して、気持ちのすれ違い、行き詰った息苦しさ、人と人とが関わり合う中での微妙な心の揺れを繊細かつリアルに描き出している。ちひろの抱える自分の空虚の自覚→周囲に合わせて取り繕っていることへの自己嫌悪、秋代が醸し出す死のイメージなどに私はひかれる。

 『blue』(祥伝社、復刊2007年)を安藤尋監督が映画化した作品(2002年)も以前に観たことがあったのだが、改めて原作を読み直してみた。田舎の女子高が舞台。どこか大人びた雰囲気を持つ同級生、彼女に寄せる友情とも恋愛ともつかぬ想い。進路決定を目の前にした戸惑い。互いにピュアであるがゆえに気持ちが過敏になってしまうあたり、矛盾した言い方だけど、さわやかに痛々しい。映画では市川実日子と小西真奈美が主演していた。

 魚喃キリコの絵柄は、マンガというよりも、デザイン風のカットを並べているという感じでクール。そのおかげで、ストーリーの感傷的なものを引き締めてくれるというか、ベタベタしない形で感情移入できる。

 『痛々しいラヴ』(マガジンハウス、1997年)、『Water.』(マガジンハウス、1998年)、『短編集』(飛鳥新社、2003年)、『キャンディーの色は赤』(祥伝社、2007年)はいずれも短編集。若い男女の人間模様を描く。バイトしたり、同棲したりというシチュエーションが多い。いわゆるベタな意味での恋愛ものではない。微妙な感情の動きまで拾い上げているのには本当に感心する。なかなか毒っ気もあるが、建前とは違ったところでの純情さがほの見えたりもする。

 『南瓜とマヨネーズ』(祥伝社、復刊2004年)が一番好きだ。日常となった同棲生活、互いの気持ちがぶつかったり、すれ違ったりの描写はリアルで説得的。先の見えない漠然とした不安の中、とにかく何かやらなくちゃ、という焦りがすけて見えてくるあたりに色々と感じさせられた。

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