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2008年3月21日 (金)

「黒い土の少女」

「黒い土の少女」

(以下、内容に触れている箇所があります。)
 雪が薄っすらと積もり、木々に葉っぱはない。韓国・江原道の炭鉱町、寒々としたボタ山の風景。いまや石炭の需要などあまりないわけで、人影のまばらな街並みは時代から取り残されたような印象を与える。

 セリフはかなり抑え気味で音楽もなく、全体的に静かなトーン。退屈して寝てしまうかもしれない、などとふと思ったりもしたのだが、この寂しげな風景や人物を捉える映像になかなか美しい情感があって最後まで見入っていた。

 ヨンリムは九歳の女の子。お父さんと知的障害を持つお兄さんとの三人家族。幼いながらも家族の面倒をせっせとみるしっかり者だ。お父さんは塵肺症で炭鉱夫をやめざるを得なくなるが、それでも転職先で前向きに頑張る。仕事用のトラックでドライブする三人の楽しげな表情──。しかし、仕事先でだまされていたことに気付き抗議したが、逆に殴られて失職、酒におぼれてしまう。住み慣れた家には再開発のための立ち退き要求が来ている。

 お金がないので仕方なく万引きをしたヨンリム、逃げ込んだ部屋で見せる思いつめた表情が印象的だ。三人とも、それぞれ限界はあっても、お互いのことを心の底から気づかっている。しかし、昔の楽しかった頃のままでは現実の壁に押しつぶされてしまう。ラストをどう捉えるか? お父さんを殺して現実から逃げるというのではなく、危険な賭けであってもお父さんを入院させるためのやむを得ない手段だったと考えたい。そうであればこそ、バスが来ても乗らず、真っ直ぐに前を向ける眼差しには、現実を直視して他ならぬ自分の手で引き受けようという覚悟が表われている、その意味で大人になる一歩を踏み出したのだと肯定的に受け止められる。

 二人の子役が本当に見事だ。一見したところ静かな映画だが、人物の表情や風景の捉え方など、言外のところで様々な感情の動きを観客に伝えてくれる。意外と掘り出し物だった。

【データ】
英題:With a Girl of Black Soil
監督・原案・脚本:チョン・スイル
2007年/韓国/89分
(2008年3月20日、渋谷、シアター・イメージフォーラムにて)

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