廣瀬陽子『強権と不安の超大国・ロシア──旧ソ連諸国から見た「光と影」』
廣瀬陽子『強権と不安の超大国・ロシア──旧ソ連諸国から見た「光と影」』(光文社新書、2008年)
プーチン後継の大統領にメドヴェージェフが当選した。当面、プーチンは首相として政権中枢に居座り、その後再び大統領に立つつもりだと見込まれること、対立候補の出馬を許さず事実上の信任投票に終わったことなど、ある種の権威主義的体制が続いているところにロシアの特殊事情がうかがわれる。
こうしたロシアの権威的性格による影響は内政問題には限らない。本書は、ソ連解体後に成立した周辺独立諸国に投げかけられているロシアからの様々な影を読み解くことで、いわば外の視点からロシアという超大国の姿を見据えていく。各国にはソ連解体後の経済的混乱を受けて昔の方がまだ良かったというノスタルジーがあるし、またかつての共通語であったロシア語使用人口が多いという点でも親ロ感情を一方には持っている。他方、言うことを聞かなければ資源供給停止という手段を取ったり、民族対立を巧みに利用して勢力圏の確保に努めたりと高圧的な態度を取るロシアへの反発もあって色々と微妙なようだ。
旧ソ連から分離した国々には意外と親日感情が強いらしい。①非西欧国の西欧化モデルとしての明治維新、②日露戦争でロシアを破ったこと、③敗戦後の高度成長への関心が理由として挙げられるが、それ以外にも、たとえばウズベキスタンのタシュケントにソ連抑留中の日本兵が建てたナヴォイー劇場の頑丈さや、アゼルバイジャンに派遣された日本企業の技術指導に感心したことも背景にあるらしい。草の根的な交流が意外とものを言う。旧ソ連圏でも村上春樹がよく読まれているというのも面白い。
著者の専門はコーカサス地域でアゼルバイジャンに留学した経験があるほか、とにかく各地を歩き回っており、なかなかうかがい知る機会のない旧ソ連地域事情の見聞記録として読み応えがある。トラブル続きの体験談も興味深い。モルドヴァ共和国内にある未承認国家“沿ドニエストル共和国”の内部事情など初めて知った。
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