「4ヶ月、3週と2日」
「4ヶ月、3週と2日」
1987年、ブカレスト。チャウシェスクの共産主義政権が崩壊する直前の時期。大学の女子寮の一室から映画は始まる。妊娠してしまったガビツァ(ローラ・バシリウ)。ルームメイトのオティリア(アナマリア・マリンカ)は、うろたえる彼女に代わって中絶の段取りを進めなければならなくなった。ところが、当時のルーマニアでは中絶は違法行為であり、彼女たちは金銭的以上の代償を負うことになってしまう。
確かにガビツァの中絶はうまくいった。しかし、彼女の人任せの自分勝手な態度を見ていると、どうにも嫌な気分になってしまう。ラストシーン、レストランで食事するガビツァ、向き合うオティリアのすきま風が入ったようなうんざりした表情が私の目には焼きついた。ポスターやちらしでは「独裁政権が中絶を禁じた法律を敢えて破ったヒロイン」という趣旨のキャッチコピーが目につく。しかし、オティリアの表情から受ける印象がかなり違うので気になり、プログラムを買って目を通した。
チャウシェスク政権においては労働力増強のため出産が奨励され、中絶が禁じられたばかりか、避妊させないようゴムも店頭から消えていたそうだ。捨て子が増えたことも社会問題となっていた。この映画を観ていて、なぜこの人たちはゴムもつけないで無責任なセックスをするんだと違和感があったのだが、政治的な背景があるのが分かって納得。宗教的・生命倫理的には異論もあろうが、中絶という行為そのものが当時のルーマニアでは反体制的な意味合いを持つようになったという。
ガビツァの人任せな身勝手。中絶を行なう男性医師の欲望。口先では善意だがどこまで信頼できるか分からない恋人。結局、自分ひとりで道を切りひらくしかないと決意を固めた女性の生き方を描いた映画として、決して明るくはないが説得力がある。
実話をもとにしているらしい。共産主義体制下の日常生活がリアルなカメラワークで映し出されるのも興味深い。日本人にとってやはり縁遠いルーマニア映画についてプログラムは簡潔にまとめてくれており、便利だった。
【データ】
監督・脚本:クリスティアン・ムンジウ
2007年/ルーマニア/113分
(2008年3月28日レイトショー、銀座テアトルシネマにて)
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