「人のセックスを笑うな」
「人のセックスを笑うな」
原作は山崎ナオコーラのデビュー作(河出文庫、2006年。どうでもいいが、高橋源一郎の解説は力みかえりすぎて、うざい…)。文体は至ってシンプル。無駄な描写を省いたところに透明感があって、たとえばセックスのシーンでも妙ないやらしさを感じさせない。
マイペースで一風変わった美術学校教師ユリちゃん(永作博美)に生徒の純情な青年ミルメ(松山ケンイチ)が振り回されるという構図では小説も映画も共通する。映画では学校をドロップアウトするエンちゃん(蒼井優)のエピソードが大きくふくらまされ、ミルメを軸にユリちゃんとエンちゃんがシーソーゲームをするような展開になっている。
短編とは言わないまでもせいぜい中編程度に短いこの小説をどうやって二時間を超える映画に仕立て上げたのか気になっていた。小説には小説なりの、映画には映画なりの媒体としての持ち味がある。原作を忠実になぞっただけの映画というのはたいていつまらないものだが、かといってアレンジし過ぎてチンチクリンな出来上がりの作品もあって難しい。この映画の場合、原作の雰囲気を生かしつつ映画版なりに独自の物語が成立しており、よく出来ていると思う。
四捨五入すれば40歳になるのに子供っぽい雰囲気を出せる女優といえば、やはり永作博美しかいないだろう。はまり役だ。蒼井優も自然にあどけない感じがとても良い。
何よりも、心にくいまでにディテールにこだわった描写が私は好きだ。小説の舞台は東京だったが、映画では北関東の小都市に移されている。つかず離れずの微妙な男女関係を描いているわけだが、たとえば東京のマンションだと冷たく突き放す雰囲気になってしまう。この映画では、古びた木造家屋のぬくもり、石油ストーブ(なつかしい)、こたつにみかん──。ミルメやエンちゃんのグダグダした想いを包み込んでくれる落ち着いたイメージが浮かび上がってくる。さり気ないけど、決め手となるとても良い演出になっていると思う。
評判は良いらしく、映画館は満席だった。
【データ】
監督:井口奈己
脚本:井口奈己・本調有香
出演:永作博美、蒼井優、松山ケンイチ、忍成修吾、温水洋一、あがた森魚、桂春團治、他
2007年/137分
(2008年2月8日レイトショー、銀座テアトルシネマにて)
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