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2008年2月 6日 (水)

「ヒトラーの贋札」

「ヒトラーの贋札」

 戦争に勝つためなりふり構わず手段を模索するのは当然だが、その中から突飛な奇策が採用されることがある。ナチスが実行したベルンハルト作戦もそうした一つ。イギリス・ポンドやアメリカ・ドルを偽造してばらまき、相手国に経済的混乱を引き起こして軍事的劣勢を挽回しようというのが目的だ。作戦名は、責任者に任命されたSS将校ベルンハルト・クルーガーにちなむ。

 強制収容所のユダヤ人たちの中から技術者を集めて偽造が行なわれた。目的を達成したらいつでも口封じできるというわけだ。ローレンス・マルキン(徳川家広訳)『ヒトラー・マネー』(講談社、2008年)は贋札作戦をめぐってドイツと連合国とが火花を散らす攻防戦を題材としたなかなか面白いノンフィクションだが、これによると、彼らの作った贋札の精度は極めて高く、イングランド銀行にかなりのダメージを与えたという。「ヒトラーの贋札」は実話をもとに脚色しながらこのベルンハルト作戦に従事させられたユダヤ人たちの強制収容所内での生活を描いている。

 ザクセンハウゼン強制収容所へ移送されると伝えられたソロモン・ソロヴィッチ(カール・マルコヴィックス)の表情に不安の影がよぎる。ところが、出迎えたSS将校ヘルツォーク(デーヴィト・シュトリーゾフ)の言葉遣いは親しげだ。ソロヴィッチの国際指名手配されたほどの贋金づくりの腕前が買われ、ベルンハルト作戦に招かれたのである。

 協力しなければ殺される。だが、成功したところで自分たちに未来はない。妻をアウシュヴィッツで殺された印刷工のアドルフ・ブルガー(アウグスト・ディール)はサボタージュを主張。しかし、ブルガーの巻き添えをくって殺されるのはいやだと所内の仲間たちから反感を買う。悪に対抗するにはやはり悪知恵が一番、仲間はみんな助けると決意したソロヴィッチは巧みに難題を切り抜けるのだが…。

 ベルンハルト作戦に動員されたユダヤ人たちは優遇された。強制収容所の中でも印刷工場は全くの別世界で、目を背けたくなるような残酷なシーンは意外とない。しかし、塀の内と外とを分けたのはほんの偶然に過ぎない。塀の外で銃声が聞こえる。ガス室に震えおののく男と偶然出くわす。自分の意志ではどうにもならないにしても、日常茶飯事となっている殺戮をただ傍観するしかなかった。映画の始めと終わり、カジノで大金を賭けるソロヴィッチの虚ろな目には生き残った者ならではの哀しみを感じさせる。

【データ】
原題:Die Fälscher
監督・脚本:ステファン・ルツォヴィツキー
2007年/ドイツ・オーストリア/96分
(2008年2月2日、日比谷、シャンテシネにて)

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