「アドリブ・ナイト」
「アドリブ・ナイト」
ソウルの雑踏、人待ち顔に携帯電話をいじっている女の子(ハン・ヒョジュ)の姿。突然、二人組みの男から「ひょっとして、ミョンウンじゃないか?」と声をかけられた。人違いだと言ってもなかなか納得してくれず、彼女は戸惑うばかり。事情を聞いてみると、そのミョンウンという娘は家出しているのだが、父親が危篤なので探しているのだという。──君は本当にそっくりだから代役として死ぬ間際に一言声をかけてやってくれないか? 何となく説得されてしまった彼女はしぶしぶながらもついていく。
目的地に着くと、親類や関係者が集まっている。遺産やら借金やら過去の人間関係やら、色々と大騒ぎ。そうした中で、ミョンウンという女性にまつわる話を聞き、彼女の持ち物に触れ、そして父親の臨終に立ち会ってその手を取る。自分にそっくりだという他人の人生に触れることで、かえって自分自身の抱えているものに思いをいたす。どこか投げやりな気分になっていた彼女の中で確実に何かが変わった。
ハン・ヒョジュという女優さんは今回初めて知った。訳あり気に憂いを帯びた暗さが浮びつつも清潔感のある顔立ちを見ていると、それがまた胸がドキドキするように美しい。原作は平安寿子らしいが、私は未読。舞台を韓国に移し変えているのだからかなりアレンジされているのだろうが、落ち着いた映像の効果もあって、しっとりと良い感じの作品だ。特にラスト近く、一晩が終わってソウルに戻ってきたときの朝の光景が、何というか、観ている側の中にもしんみりとしたものが湧き起こってきて、彼女が感傷的になるのも自然に納得できる、そんな感じにとても印象的だった。
【データ】
英題:Ad Lib Night
監督・脚本:イ・ユンギ
原作:平安寿子「アドリブ・ナイト」『素晴らしい一日』文春文庫
2006年/韓国/99分
(2008年2月11日、渋谷、アミューズCQNにて)
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