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1月の台湾・立法院選挙(総選挙)では国民党が地すべり的な大勝を果した。民進党の陳水扁政権下での①経済失政、②政治腐敗に批判が集まり、それを挽回すべく③陳総統自身のイニシアティブで正名運動(具体的には、蒋介石にまつわる地名の抹消)と台湾独立意識の昂揚(具体的には、台湾名義での国連加盟を求める国民投票の実施)などによって本省人と外省人との対立意識を煽動しようという方針がかえって反発を買ってしまったこと、以上に原因が求められる。小選挙区制を導入したのも敗因の一つだが、これは他ならぬ民進党自身が国民党の内部分裂を誘発しようと画策した結果であり、返り討ちをくらってしまった形だ。
香港誌『亜洲週刊』1月27日号は台湾総統選特集を組んでいる。3月の総統選についての世論調査では国民党の馬英九候補が圧倒的にリードしている。謝長廷候補を擁する民進党は、陣頭指揮を取っていた陳総統が総選挙大敗を受けて前面から退き、謝候補自身がすべてを取り仕切る態勢に組み替えた。童清峰「台湾総統選挙爆発力大決戦」によると、民進党にも必ずしも目がないわけでもないらしい。民進党の支持率は30~40%前後、これに台湾団結連盟など汎緑派(台湾独立派)を合わせると45%くらいはいくという。あと5%をにぎるのが第一に、李登輝。現在、李登輝と陳水扁の仲は悪く、台湾独立派の選挙協力に失敗したことも民進党敗北の一因となっている。謝は総選挙大敗直後に面会に行ったそうだ。一方、馬も李登輝を敬う姿勢を変えていないが、李自身は馬・謝のどちらを支持するか態度を明らかにしていない。第二に、中間派の票を取り込み必要がある。現在の台湾社会では穏健な台湾独立という考え方が主流となっており、少なくとも経済では大陸との関係を拡大すべきという趨勢にある。それを受けて謝は陳水扁が進めてきた強硬路線を完全に切り替えた。馬にしても中台統一派というイメージが固定化することで票が逃げることを警戒している。従って、謝・馬ともに“穏健台独”という世論の流れに如何に歩み寄るかがカギとなっている。そして、両陣営ともに軸足を中道に寄せていけば、それだけ台湾社会内での対立も弱まっていくとも考えられる。
ちなみに、童清峰「謝長廷逆中求勝的伝奇」によると、謝長廷のあだ名は“九命怪猫”。民進党内での権力闘争に何度も敗れながらもそのたびに復活し、強い意志力で逆境を踏ん張ってきた経歴で知られているらしい。
咼中校「一個大陸人看台湾選挙」は、『亜洲週刊』記者自身の選挙見聞記。国民党陣営のプレスルームで開票速報を見ていたら、王金平立法院長(国会議長)というVIPが気軽に入ってきて、「セキュリティーは大丈夫なのか?」と驚いているのが面白い。香港とは違って、台北の人々が候補者の人物像や政策について盛んに話し合っているのを見て、「中山先生(孫文)の説いた“政治即衆人之事”が台湾ではまさに実現している」と記す。本号の冒頭には香港での普通選挙をめぐる不透明な未来についての記事(「怎様普選VS何時普選」)があるだけに、言外の感慨がありそうだ。
毛峰「華人作家与日本芥川奨邂逅」は、『ワンちゃん』で第138回芥川賞の最終選考まで残った中国人留学生楊逸さんへのインタビュー記事。
“Foreign Affairs”2008 Jan/Febの特集は‘Changing China’。John L. Thornton‘Long Time Coming : The Prospects for Democracy in China’は長期的に見れば中国の政治過程の民主化は楽観できるという趣旨。G. John Ikenberry‘The Rise of China and the Future of the West : Can the Liberal System Survive?’は、台頭する大国は既存の国際秩序をひっくり返すか、そこに適合するかのどちらかだが、中国にとっては適合する路線が利益にかなうだろう。将来的にアメリカの覇権が相対的に低下することは避けられないが、現在の国際システムの中にアメリカ主導で中国を組み込んでいくことが必要、と主張。Stephanie Kleine-Ahlbrandt and Andrew Small‘China`s New Dictatorship Diplomacy : Is Beijing Parting with Pariahs?’。Pariahというのはつまり北朝鮮、ミャンマー、スーダンなどの“鼻つまみ”国家のこと。こうした“鼻つまみ者”が崩壊の危機にあるという認識を共有することで、ここ数年、米中が共同で対処するシーンがあったことを踏まえ、中国自身の価値観は変わらないにしても、国際問題で歩み寄れる可能性を指摘する。
Michael McFaul and Kathryn Storner-Weiss‘The Myth of the Authoritarian Model : How Putin`s Crackdown Holds Russia Back’はデータを示しながらプーチン政権について開発独裁モデルで考えることを否定、権威的政権だから経済成長に成功したのではなく、権威的であるにも拘わらず成長したのだと指摘。Vali Nasr and Ray Takeyb‘The Cost of Containing Iran : Washington`s Misguided New Middle East Policy’はアメリカ政府のイラン封じ込め政策を批判、イランも地域的安全保障に組み込むべきだし、そうすればイラク情勢の安定化にもつながると主張する。
『東京人』2008年2月号は「開通80年 地下鉄がつないだ東京風景」特集。昔のポスターについての記事を見ているとやはり杉浦非水が目を引く。東京の地下鉄の変遷や各路線ごとのエッセイ多数。詳しく書きたいところだけど、長くなってきたのでやめときます。
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