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2008年1月16日 (水)

台北を歩く⑪誠品書店信義店にて

(承前)

 最後のお目当て、誠品書店信義店へ向かった。2006年に開店した新しい旗艦店である(写真84)。2~5階までを書店が占めている。店舗面積は実に広々としており、池袋のジュンク堂書店よりも広いのではないか。本店は24時間営業だが、ここも遅くまで開店しているはずで、正確な時間は確認していないが、少なくとも店内にある喫茶店の閉店時間は夜中の0:00だった。

 上から、まず5階は児童書フロア。中国語ばかりでなく、日本語、ヨーロッパ諸語の絵本が取り混ぜて置かれている。4階は洋書と芸術のフロア。日本語専門コーナーがある。芸術・ファッション・旅行関係が多い。換算レートにもよるが、日本で買うよりも1割ほど高くなってしまう。3階は人文関係。ちょうど、台湾大学の心理学の教授によるトークセッションが行なわれていた。それから、社会科学・ビジネス。2階が新刊・雑誌フロア。6階はレストラン街。

 ジュンク堂と同様、店内に座れるスペースがある。座り読みどころか堂々と調べ物や勉強をしている姿も目立ち、中には本の開きを手で平らにならしている人がいたのには驚いた。部数の多い新刊や雑誌はビニール包装されており、平積みの一番上に1冊だけ見本用が置かれているので、それを読んでいたのだろう。立ち読み・座り読みには日本よりも寛容な社会のようだ。

 台湾の書店で娯楽小説をみると、金庸などいわゆる武侠小説という中国独特の小説ジャンルがある一方で、現代小説や推理小説、それから漫画のコーナーをみると日本語からの翻訳が圧倒的に多い。日本の名だたる作家のものはほとんど翻訳されているし、漫画に至っては9割以上が日本作品だ。誠品書店信義店のような巨大書店をみても、これだけの出版物が出ているというのは台湾の人口から考えて驚異的だろう。読者需要というだけでなく、書き手という供給源の点からも一定の人口は必要である。台湾は人口比率からいって日本の約五分の一だが、娯楽作品については日本からの翻訳という形で供給源を補っていると言えるのだろう。

 日本のファッション雑誌は誠品書店などの大型書店に限らず街中の中規模店でも普通に置かれている。中国語版も装丁の雰囲気はまったく変わらず、ひらがな・カタカナが装飾的に使われたりカバー表紙で日本のアイドルが微笑んでいたりするので、並んでいてもどちらが日本語版でどちらが中国語版なのか、一瞬、見分けがつかないくらいだ。

 4階に大陸から輸入された簡体字本の専門コーナーがあった。台湾では民主化によって大陸からの輸入制限が緩和されている。西欧の学術的成果を摂取する際、かつては台湾独自で翻訳するか、もしくは日本語経由で読んでいた。ところが、近年は大陸の経済水準、そして文化水準が向上するにつれて、大陸でも西欧文化の翻訳出版が盛んになり、人口が多いだけに翻訳のペースもはやい。しかも、台湾や日本の本よりも廉価で入手できる。そのため、台湾では近年、簡体字本の需要が高まっているという。

 新刊のベストセラーでは、安妮宝貝(アニー・ベイビー)『蓮花』(繁体字版)が一位となっていた。安妮宝貝は上海を舞台とした小説を書き、ネット発で大人気、中国語圏の若者世代から広く支持されている(なお、帰国してから神保町の内山書店で大陸刊行の『蓮花』簡体字版を手にとって見たら、本の作りは台湾刊行の繁体字版の方が断然きれいだった)。これと合わせて興味を持ったのが、誠品書店でも張愛玲の小説がたくさん平積みされていたことだ。前にも述べたように、戦前の上海でラヴ・ストーリーを書いた女流作家である。張愛玲の原作をもとにトニー・レオン主演で映画が製作されているという事情がある。新旧両世代で大陸作家の小説が売れているというのが興味深い。

 同じ中国語(北京語)を公用語とする国として台湾は大陸と文化的土壌を共有している。他方、先に触れたように、娯楽小説や漫画の大半は日本語からの翻訳である。最近は韓国語からの翻訳も増えてきているようだ。娯楽作品は難しい思惑はとりあえず関係なく、自然な感覚で読むものだから、それだけ日本や韓国との共通した感性を台湾の一般読者は持っていると言える。つまり、言語的な共通性によって大陸に開かれつつ、同時に大陸からは独立した政治単位として、大陸と日本や韓国との結節点としてのポジションをとる。書籍事情からみても、そのように台湾が今後とるであろう方向性は考えられるのではないか。

 やはり本をごっそり買い込んでから宿舎に戻った。翌四日目、24時間営業の誠品書店敦南本店に早朝から足を運び、さらに何冊か買い足す。中国語は苦手なくせに、結局、合わせて20冊以上の本を買い込んでしまった。ついでに近くの国父紀念館にも寄る(写真88)。孫中山先生でございます(写真84)。儀仗兵の交代式(写真85写真86)。蒋介石は否定される一方で、孫文については国父としての地位は剥奪されていない。写真87は国父紀念館から見た台北101。昼12:00に集合場所で観光会社のバスに拾ってもらい、桃園国際空港へ行き、帰国の途に着いた。

(了)

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