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2008年1月11日 (金)

台北を歩く⑥西門町から萬華へ

(承前)

 中華路に沿って西門町へ行く。ここは若者が闊歩する繁華街、日本でいうと原宿、渋谷のような雰囲気と言ったらいいだろうか。

 もう昼過ぎだ。北平一條龍餃子館という店で食事をとることにした。チンジャオロウスー、焼き餃子、野菜入りのスープを頼んだ。餃子は大きく細長いのが一皿に十本あった。細長いのは華北風らしい。こってりとして、これだけでもお腹いっぱいだ。一人なので色々な料理を注文できないのがつらい。

 西門町は映画街としても知られる。蔡明亮監督「楽日」(2003年)では台北の古い映画館が閉鎖される最後の一日が描かれていた。この映画に出てきたような昔ながらの映画館は取り壊されてもはや見当たらず、みなシネコンに生まれ変わっている。どのシネコンも24時間営業。今は「國家寶蔵」(ナショナル・トレジャー)、来週公開予定の台湾のSF大作「長江七号」、金城武などが主演する時代劇「投名状」の看板が目立った。

 ぶらぶら歩きながら西門紅楼へ行った(写真35)。八角形の赤レンガが目を引く味わい深い建物だ。もともとは市場、映画館などとして使われたが、現在は建物そのものを保存しようと記念館として開放されている。館内にはこの建物の来歴が記されており、それによると近藤二郎という人が設計したそうだ。また、古い映写機が置かれていた(写真36)。二階はレトロになかなか洒落た感じのシアター・スペースとして利用されている。

 西門紅楼の裏手に出て萬華の旧市街地の方向へと歩く。萬華は台北で最も早くから開けた場所だが、現在では中心地としての賑わいはない。たとえて言うと、東京・山手線の東側に広がる下町のような雰囲気だろうか。家具問屋街を抜けてしばらく行くと、艋舺青山宮というお堂があった(写真37)。「宮」とつくのは道観、つまり道教のお寺である。こうした所に庶民の古い信仰形態もよく残っているようだ。

 萬華区の真ん中あたりを華西夜市が南北に走っており、その北の入口まで来た。この近辺に戦前は遊郭があり、戦後は公娼地区となっていた。かつて日本人の買春ツアー客が台湾にやって来て問題となっていたが、この辺りまで足を運んだのだろうか。そうした類の悲喜劇は、たとえば黄春明(田中宏・福田桂二訳)『さよなら、再見』(めこん、1979年)で描かれている。又吉書によると、以前は少数民族系の顔立ちをした年端のゆかぬ少女たちも見かけたという。陳水扁が台北市長だった頃に条例で禁止されたため、売春は現在では、少なくともおおっぴらには行なわれていない。公娼地区だったと思しき場所を歩いてみると、軒並みシャッターが閉まっていて、文字通りのゴーストタウンだ。辛うじて一軒だけ「情趣商品」という看板を掲げた“大人のおもちゃ”を売る店があったくらいで、狭い横丁に入っても誰一人として人影を見かけなかった。

 華西夜市を歩いた。もちろん夜にならないと夜市の賑わいは分からないが、ここはアーケード式商店街としての体裁が整えられているので、それなりに買い物客が出てきている。夜市街の南の端まで来たが、大通りを隔ててさらに南に路地が続いているのでそのまま歩き続けた。

 夜市街の延長線上にあるはずなのだが、雰囲気がちょっと違ってきた。夜市街は当然ながらきちんとしていない雑然とした空気が魅力なわけだが、この辺りはそういうのとは違って、まだ陽も高いので危ない感じはないにしても、明朗な感じもない。女性が寄って来て、何か言いながら私の腕を取ろうとしたので振り払った。辻立ちの客引きだ。ちょっと隠微な影を落とす横丁に入るといかにもそれらしい置き部屋があり、窓越しに女性たちが座っているのが見えた。公娼制度が廃止されたので、こちらに移ってしぶとく生き残っているようだ。路地は短く、まっすぐ突き抜けると、龍山寺近くの大通りに出る。普通に人々が歩いている。車が激しく行きかう喧騒が別世界のように感じられた。

 龍山寺に行った(写真38)。台北でもよく知られた観光スポットの一つで、東京でいうと浅草寺のような位置づけだろうか。“寺”だから当然ながら仏教のはずだが、私には道教との区別がつかない。実際、ここには関帝(関羽→商売の神様)や媽祖(航海の神様)も祭られており、仏教も道教も渾然一体となった民間信仰として考える方がいいのだろう。お香のかおりが立ち込める中、人々がお祈りしている。作法が複雑で、すぐには真似できない。とりあえず、後ろの方でそっと手を合わせて立ち去った。これが今年の初詣で。なお、又吉書によると、尾崎秀実や秀樹たちの父である尾崎秀真による碑文がこの寺のどこかにあるらしいのだが、見つけられなかった。

 龍山寺駅からMRTに乗って西門駅で下車。先ほど歩いた西門町に戻った。中華路を北上、忠孝路との交差点がロータリーとなっており、そこに北門がある。

(続く)

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