「グッド・シェパード」
「グッド・シェパード」
エドワード・ウィルソン(マット・デイモン)はCIAの対敵諜報部門の責任者。第二次世界大戦中、サリヴァン将軍(ロバート・デニーロ)にスカウトされてOSS(戦略事務局)の創設に関わり、冷戦が始まってその後継たるCIAに入った。1961年、反カストロ派亡命キューバ人グループがCIAの支援の下キューバ上陸を試みたが、事前に情報が漏洩して失敗。いわゆるピッグス湾事件である。その後のキューバ危機(1962年)の前哨戦とも言える。情報を漏らしたのが一体誰なのか特定せよとせっつかれるエドワードのもとに匿名で一本のビデオテープが送りつけられた。その解析作業を進めながら、自身が情報機関に入った道のりを振り返る。
CIAという組織内における葛藤を描いた映画としてロバート・レッドフォード、ブラッド・ピットの出演していた「スパイゲーム」(2001年)を思い出す。最後のドンデン返しにスカッとする面白さがあった記憶があるが、対して「グッド・シェパード」は直球勝負と言おうか。
任務は極秘、誰も信用できず、完全な孤独。何のため、誰のため? あるイタリア人移民が語る。「私には故郷がある。ユダヤ人には伝統が、黒人にだって音楽がある。君たちには一体何が?」「アメリカ合衆国だ」とエドワードが答える。しかし、愛国心と言葉で言ってももろいものだ。それこそアメリカのように社会契約的に合理的に構築された抽象的な国家モデルは、多様な人々を受け入れるという長所は持ちつつも、皮膚感覚に訴える忠誠の対象となり得るのだろうか。
佐藤優がどこかで書いていたが、イギリスの情報機関は、国王からじかに認めてもらえる、つまり国王に直結した忠誠心がこの孤独でつらい仕事の動機付けとして働いているという。しかし、エドワードは家族にすら仕事のことを話すことができず、誰からも認めてはもらえない。
もう一つ、この映画を見ていると、秘密の共有→仲間意識を持つというシーンがよく出てくる。アイビーリーグの優等生を集めたスカル・ボーンズ・クラブもそうだが、敵であるソ連のスパイとも息子の不祥事について個人的に処理しようというやり取りがあった。「いつ味方が敵になり、敵が味方になるか分からないからな」。母国での立場がまずくなった時に亡命を受け入れてもらう保険ということなのだろう。
忠誠心、自分の拠り所、それを求めようにも常に裏切られる可能性と紙一重。しかし、冷徹なリアリストであっても拠り所をどこかに持っている。スパイの条件は何か? 映画の中で、冷静さ、それからロマンチストであることと自嘲的に笑うセリフがあったが、それもむべなることかなと納得。
【データ】
監督:ロバート・デニーロ
出演:マット・デイモン、アンジェリーナ・ジョリー、ロバート・デニーロ、ジョン・タトゥーロ、マイケル・ガンボン、他
2006年/アメリカ/167年
(2007年11月4日、新宿プラザにて)
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