台湾に行ってきた⑥(台湾高速鉄道で高雄へ)
(承前)
二・二八和平公園を歩き、国立台湾博物館に向かう。公園の北のはじっこにある。公園入口から道路をはさんだ向かい側に古い建物があったので撮影(写真18)。現在は土地銀行が入っているが、帰国してから戦前の地図を確認したところ、三井物産株式会社となっていた。
写真19が国立台湾博物館。戦前は台湾総督府付属の博物館であった。自然史(博物学)や原住民に関する通常展示のほか、随時企画展示も行なわれている。私たちが行った時にはチェコの人形劇について特集展示が組まれていた。チェコ・アニメーションのファンは日本にも結構いるが、その源流は人形劇にある。ファンタジックな雰囲気をなかなか楽しそうに工夫を凝らして出しているのでゆっくり見たいところだが、時間的な都合から駆け足で通り過ぎる。自然史コーナーは少々しょぼかった。原住民に関するコーナーも色々と興味深いのだが、中国語のキャプションを読むにも手間取るし、やはりじっくり見るには時間が足りない。
公園近くの台北医大病院前駅からMRTに乗り、中山駅で下車。デパートが立ち並ぶ、東京で言うと日本橋のような所だろうか。Hおすすめということで、新光三越西南店の上にあるレストラン欣葉で遅めの昼食をとる。再び中山駅に戻り、地下通路を歩いて一駅隣の台北駅まで戻る。ちょっとした地下街になっていた。
MRT、台湾鉄道(台鉄)も含めて台北駅は完全地下化されており、台湾高速鉄道(Taiwan High Speed Rail=HSR、高鉄)も地下駅から出発する。15:00台北発、左営行きに乗った(写真20)。いわゆる台湾版新幹線である。本来ならば2005年開業予定だったらしいが、色々とトラブルが続き、今年の一月にようやく開業したばかりである。乗り心地は悪くない。ワゴン販売を何気なく見やると、ロッテの「コアラのマーチ」「ポッキー」といったカタカナが目に入ってきた。韓国系企業がつくった日本製商品を台湾の新幹線で売っているというのも不思議な感じだ。定期的にゴミ収集の人も通りかかる。
車窓の風景を眺める。日本の新幹線と同様に、在来線とは離れた所に路線が敷設されているので、都市では見られない台湾の姿が一瞥できる。台北盆地から台湾島西部の平野に出るまでの山地はトンネルが多い。鬱蒼と茂る木々の緑が目に瑞々しく映える。いったん平野に出てしまうと、あとは広々とした田畑が広がっている。溜池が散在しているのが目立つ。台湾中部の大都市、台中市が見えてきた(写真21、写真22)。横を通り過ぎると、再び田畑の広がりの中をひたすら走る(写真23、写真24、写真25)。このあたりの水利が、八田與一のイニシアチブで整備された嘉南大圳であろう。やがて夕日が空をあかね色に染める中、台湾第二の大都市圏、高雄市へと近づく(写真26)。
台北から左営まで高鉄で約一時間半ほど。台鉄の自強号という特急列車では3,4時間くらいかかるというから、だいぶ便利になった。我々のように日帰りのプランを気軽に組める。ただし、高鉄は台鉄の高雄駅までは直結していない。終着駅の左営はその手前。日本の新横浜や新大阪みたいな感じか。台鉄の新左営駅とつながっており、こちらから2駅目で高雄駅に着く。ただし、台鉄の本数は少なく、接続はあまりよくない。現在、地下鉄を建設中だが、開業は今年の末くらいになるそうで、とりあえずタクシーを使うのが無難だろう。なお、左営のように「営」という字の入った地名を時折見かけるが、鄭成功の率いた軍隊の屯所が置かれたことにちなんでいるという。
高雄はかつて打狗(ターカオ)といった。日本の支配下に入った後、“犬をぶつ”なんて町の名前として宜しくないということで発音だけ音写して“たかお=高雄”と改称された。日本人はついつい“たかお”と言ってしまうが、中国語での発音は“カオシュン”である。司馬遼太郎は『台湾紀行』の中で、司馬がうっかり“たかお”と言ってしまうのに対して、親日家の“老台北”こと蔡焜燦氏が訂正こそしないものの、敢えて“カオシュン”という発音で会話を続けていたので司馬は恐縮してしまったというエピソードをつづっている。
高雄はやはり暖かい。空気は少しムワッとする感じだが、夕方は適度に涼しく、今の時期が一番過ごしやすいのではないか。きっちりと区画整理されて街路も広いせいか、台北よりもきれいに整った印象がある。Hおすすめの海鮮料理店で食事をしてから六合夜市へと足を向けた。台北や基隆の夜市と比べ、道路が広いので歩きやすい(写真27)。果物やフルーツジュースを売る屋台のヴァリエーションの豊かさが目を引く。どら焼きの屋台ではドラえもんの歌が流れていた。Hが海賊版DVDをせっせと買い込むのを私は横目で睨みつける。
写真28は夜の高雄駅。台鉄で新左営に出る。時間があったので駅中のコンビニをひやかしていたら、日本語の雑誌、とりわけ女性向けのファッション雑誌が多いことに気付いた。高鉄左営から21:15発の台北行きに乗車(写真29)。窓の外はまっくら。隣のHはウツラウツラ。二・二八紀念館でもらった許文龍『台湾の歴史』を通読した。
22:50頃、台北駅に到着。さらにMRTに乗って剣潭駅で下車。今度は士林の夜市を歩く(写真30)。一晩のうちに高雄、台北と二大都市の夜市を歩くというのもなかなか得がたい経験である。私はこういう騒がしい雑踏を歩くのはあまり好きではないので、Hに引っ張られなければ来ることはなかっただろう。その点では彼の強引さもありがたい。
(続く)
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