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2007年11月 2日 (金)

台湾先住民をめぐって四冊

 日本はアメとムチとを使い分けて台湾統治を進めたが、そのムチの最たるものとして山地に住む先住民への苛烈な鎮圧作戦が挙げられる。山地先住民はかつてオランダ人にも漢人にも服さず、首狩りや入墨をはじめ独自の習慣を維持していた狩猟採集民であり、台湾全島の支配を目指す日本は激しい抵抗に遭った。ようやく帰順させたものの、文明化という方針の下、彼らの生活習慣に手をつけた上に強制労働に駆り出したこともあって不満がくすぶっていた。

 そうした中、1930年、タイヤル系部族セイダッカが台湾中部の霧社公学校で行なわれていた運動会を急襲し、子供を含め130人余りの日本人が皆殺しにされるという事件が起こった。セイダッカの頭領モーナルダオが日本人警官に侮辱されたことで鬱積していた不満に火がついたことがきっかけらしい。日本側はただちに爆撃や毒ガスも用いた大掛かりな反撃を開始、もともとセイダッカと反目していた他部族も動員された。セイダッカの男たちはほとんど討ち死にし、女性や子供たちは首をつって自殺したという。文字通り滅亡覚悟の反乱であった。これを霧社事件という。セイダッカの生き残り500人は収容所に入れられたが、翌年、セイダッカと仲の悪かった他部族が日本の警察の黙認の下ここを襲撃し、さらに200人余りが殺された(第二次霧社事件)。洋の東西を問わず植民地支配において活用される分割統治の手法が見て取れる。

 その後、日本の軍部はこの事件を通して山地先住民の戦闘能力の高さに目をつけ、太平洋戦争において“高砂義勇隊”を結成させる。植民地時代に生まれ育った世代には“帝国臣民”としての意識が植え付けられていくが、彼らの伝統的な尚武の気風は日本の軍部が鼓吹する“日本精神”と親和的であったともいう。

 柳本通彦『台湾・霧社に生きる』(現代書館、1996年)はこの惨劇の舞台となった霧社を訪ね、事件の記憶を掘り起こすべく人々から話を聞き取ったルポルタージュである。霧社事件に遭遇し、その時の凄惨な有り様を語る先住民女性。彼女の夫は日本人化教育を受けて警察官に採用されていたが、セイダッカの仲間と日本との板挟みになって自殺した。高砂義勇隊に志願したという老人が嬉々として日本語を使い、NHKの衛星放送を楽しみにしているというのも複雑な感じがする。彼は台湾語も北京語もできず、部族の言葉を使う者も少なくなったため戦後の半世紀を孤独のうちに生きてきたのだ。

 日本統治時代の傷跡を戦後もずっと引きずりながら声に出せない人が少なくないが、台湾社会内のマイノリティーたる先住民はなおさらのことである。台湾出身者で日本軍として戦いながらその補償も受けられなかった人もそうだが、柳本通彦『台湾先住民、山の女たちの「聖戦」』(現代書館、2000年)、同『台湾・タロコ峡谷の閃光──とある先住民夫婦の太平洋戦争』(現代書館、2001年)ではとりわけ過酷な運命を強いられた女性に焦点が当てられる。夫や婚約者は高砂義勇隊として南方戦線に送られ、残された彼女たちに「生活が大変だろう」と仕事の口が紹介された。当時、連合軍は沖縄ではなくまず台湾に上陸するだろうと大本営は予想しており、台湾で持久戦の準備が進められていた。彼女たちは軍の関係施設に雑役に雇われたが、だまされて日本兵の夜の相手をするよう強要された。「お国のためだ」と恫喝され、逃げることもできず、つらい思いを戦後も抱え込まねばならなかった。

 台湾総督府は激しい抵抗を示した先住民を警戒し、その管理に意を注いでいた。派遣された警官は教育や農業指導などあらゆる任務を与えられた。生活習慣に手をつけた上、中には横柄な人物もいたため摩擦が生じ、駐在所の焼き討ちも頻発。そこで、日本人警官を部族の頭領の娘と政略結婚させ、その権威を借りて統治を進めるという奇策も実際に行なわれた。下山操子著、柳本通彦編訳『故国はるか 台湾霧社に残された日本人』(草風館、1999年)は、そうした事情の中で生まれた一家が戦後も台湾に残って体験した苦難をつづった半生記である。最初は史料調べのような考えで手に取ったのだが、戦後台湾社会の世相の移り変わりがうかがえるばかりでなく、彼女自身の波乱に満ちた人生に深く感じ入り、いつしか身をのり入れて読み込んでいた。

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