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2007年11月25日 (日)

「眠り姫」

「眠り姫」

 冒頭、薄明の色合いを背景に、すでに落葉した木の枝の広がりを映し出した映像が影絵のように美しい。映像に人物は登場しない。どこか寒々とした映像を連ね、そこに声だけでセリフをかぶせながら物語は進む。映画というよりも、映像叙情詩といったらいいのだろうか。音楽は美しいのだが、所々でトゲトゲしく胸をつんざく。嫌いじゃない。

 中学校で非常勤講師をしている青地は、眠っても眠ってもまだ眠り足りない。学校へ行くのも億劫。恋人とも何となく付き合い続けてはいるが、もう面倒くさい。顔は丸くなってきた。時々、変な声が聞こえてくる。同僚の野口に相談しても気味悪がられるだけだ。しかし、その野口も不自然なほどにやせ細って様子がおかしい。

 原作は山本直樹の同名マンガ(『夜の領域』チクマ秀版社、2006年、所収)だが、このマンガ作品自体も内田百閒「山高帽子」(『内田百閒作品集成3 冥途』ちくま文庫、2002年、所収)を原作としている。山本の作品は、かつて東京都の有害図書条例にひっかかったことで知られているように、あからさまな性描写に特徴がある。しかし、単なるエロではない。私はそんなにたくさん読み込んだわけではないが、全体的なトーンとして無表情、無感覚というか、性=生の稀薄感を漂わせた女の子が多く登場するという印象があり、「眠り姫」も含めて、今という時代のある種の空気を汲み取っているようにも感じられる。

 舞台は現代に移し変えられている。時折、微妙に古風な言い回しで語られるが、百閒「山高帽子」のセリフがそのまま使われている箇所である。もちろん、百閒にエロはないし、彼の皮肉っぽい文体は存在の稀薄感なんて感覚からはかなり距離がある。ただ、うつつか夢か、その境界線がぼんやりとした物語設定は、百閒の筆致とはまた違った形で、山本のマンガ、この映画、それぞれの持ち味が活きてくるのが面白い。

【データ】
監督・脚本:七里圭
音楽:侘美秀俊
声の出演:つぐみ、西島秀俊、山本浩司、他
2007年/80分
(2007年11月19日レイトショー、渋谷、ユーロスペースにて)

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