「僕がいない場所」
「僕がいない場所」
反抗心旺盛で詩人を夢見る少年クンデル。孤児院から脱け出して母のもとへと戻るが、再会した母のベッドには男がいた。もう二度と来ないでくれと言われたが、時折母の様子をのぞき見ながら、クズ拾いで生計を立てる。シンナー中毒の他のストリート・チルドレンからは逃げ、食堂では施しは受けないと強がるあたり、心の中の芯が崩れないよう必死な姿がけな気だ。
川辺の廃船に住まいをみつけたところ、すぐ近くの裕福な家庭の少女がいつしか遊びに来るようになった。彼女もまた寂しさと劣等感を抱えている。仲良くなったクンデルは「一緒に遠くへ行こう」と言う。しかし、二人の様子をうかがっていた少女の姉が警察に通報、連行されるクンデルの叫び声は少女のもとには届かない──。
舞台はポーランドの田舎町。彼の孤独な心象風景を映し出すかのような、寒気の際立つ荒涼とした山野や水辺の風景。しかし、たとえば、夜明けの瑞々しい光などには、クンデルの心の中に確固として根付くピュアな気丈さを表わしているようで、彼の寂しさを見てきただけに、それがかえって眼も醒めんばかりに清らかだ。マイケル・ナイマンの流麗なメロディーがそうした風景にかぶさり、胸に切なくしみいってくる。哀切な感傷は、時に不思議と美しさを呼び起こす。この映画の映像も音楽も、本当に美しい。私はマイケル・ナイマンの曲が大好きだが、彼が関わっている映画は少なくとも音楽が素晴らしいのではずれがない。
【データ】
原題:Jestem(英題:I am)
監督:ドロタ・ケンジュルザヴスカ
音楽:マイケル・ナイマン
2005年/ポーランド/98分
(2007年11月18日、渋谷、シネマ・アンジェリカにて)
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