与那原恵『街を泳ぐ、海を歩く』
与那原恵『街を泳ぐ、海を歩く』(講談社文庫、1998年)
目が覚めたら、東京にしては珍しいほどの美しい青空が広がっている朝だった。ああ、こんなきれいな空を沖縄の諸島で見ていたいなあと思った瞬間、沖縄に行くことに決めてしまった──。そんなノリで世界を歩き回った旅の記録である。
カルカッタで会った日本人旅行者のビンボー自慢。彼から、君はどうしてカルカッタにいるの、と聞かれた。「私はカルカッタに意味など求めていない。混沌(カオス)だの生だの死だの、どうでもいいのだ。私はひとりでいたいだけだ、そう言った。」
与那原さんの文章は割合と感傷的だけど、わざとらしい嫌味のないところが私は好きだ。インドでは貧困を見なければいけない、中東では紛争を見なければいけない、そういった類いの構えたフィルターがない。もちろん、問題の背景ははきちんと分かっており、十分に書き込んでいる。むしろ、歩いた場所、出会った人々をみつめるまなざしが自然体で優しいだけに、それぞれに抱え込んでいる葛藤が共感的に描き出されている。思い入れたっぷりなのだがしつこい重たさはなく、読んでいて心地よい。
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