「風を聴く~台湾・九份物語~」
「風を聴く~台湾・九份物語~」
台湾島北岸、古びたたたずまいにかつての賑わいの跡をとどめる街、九份。もともと九戸しか家がなかったことが名前の由来だという。ところが、1890年に砂金が発見され、一旗挙げようという人々が押し寄せ、街の規模は急速に拡大。顔雲年という人物が日本側から九份の金鉱経営をまかされ、顔氏一族は今でも台湾の五大名家の一つに数えられている。一青窈、この映画のナレーションを務める一青妙姉妹の父はこの顔氏らしい(一青は母方の姓)。
かつて金鉱で働き、現在は語り部としてハキハキとした日本語を使う汪兩旺さん(80歳)を軸として、九份に暮らす人々へのインタビューを重ねたドキュメンタリーである。日本統治時代、公学校での思い出。台湾をも見舞った空襲。国民党軍がやって来てやがて起こる二・二八事件。ゴールドラッシュ、1971年の閉山後の街の衰退。そして、鉱山の粉塵で肺をやられて亡くなった人々のこと。最初は80歳前後の老人たちの思い出話が中心だが、徐々に若い人々の話も織りまぜられ、土地の美しさへの愛着が語られていく。
一攫千金に成功した者の欲望を満たすべく活況を呈した九份の繁華街は「小上海」「小香港」と呼ばれたという。山の中腹に段々状に並ぶ酒楼の風景は侯孝賢監督「悲情城市」(1989年)で見かけた。古い映画館が保存されており、そこには同じく侯孝賢監督「恋恋風塵」(1987年)の看板が掲げられている。侯孝賢映画の脚本で知られる呉念真の故郷が確かここ九份だったはずだ。彼の父もやはり鉱夫をしており、自身が監督した「多桑(=トウサン)」(1994年)で、鉱夫生活のつらさと時代に適応できなかった孤独感とを愛憎相半ばした視点で描き出していた。
海辺に山がすぐ迫り、その山すそを這い上がるように街が広がっている。木々が青々として、空や海の色とのコントラストが際立って美しい。山の中腹、すすきの茂る中に散らばっているお墓が、街の歩みを見守っているようで印象的だ。
【データ】
監督・脚本:林雅行
ナレーション:一青妙
2007年/日本/117分
(2007年10月24日レイトショー、渋谷、ユーロスペースにて)
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