「童年往時──時の流れ」
「童年往時──時の流れ」
侯孝賢(ホウ・シャオシエン)自身の少年時代を振り返った自伝的な色彩の強い映画である。
国民党政権の移転に伴って台湾にやって来た人々の暮らす地域を眷村という。彼らには、引き揚げた日本人の家屋があてがわれた。実は侯孝賢の父親も広東省から来た教育庁勤務の公務員で、侯孝賢自身もまた1947年に広東省で生まれている。その点では外省人だが、大陸にいたのはほんの赤ん坊だった頃で、生活感覚は台湾人そのものだという。彼の映画には日本式家屋がよく出てくるが、眷村で育ったという生い立ちによるところも大きいのかもしれない。
幼い日々、“阿孝(アハ)”と呼んでかわいがってくれたおばあさんはいつも大陸をなつかしがっていた。彼女は客家の出身。道を尋ねても言葉が通じないシーンがあるし、そもそも“孝”は普通話では“シャオ”であり、“ハ”は客家語の発音らしい。字幕で観ている分にはよくわからないが、こうしたあたりにも家庭内においてすら言語的な分裂があったことが示されているようだ。
阿孝の家には粗末な家具しかない。いずれ大陸に戻るつもりだったので、いつでも処分できるよう安物しか父が買わせなかったのだという。長引いた仮住まいの果てに、望郷の念を抱えたまま父、母、そして祖母が寂しく死んでいく姿を少年阿孝はじっと見つめる。
中共のミグ戦闘機撃墜!というラジオニュース。大陸に残った親戚が文化大革命でひどい目に遭っていることを伝える手紙。子供たちのふざけあいの中でも使われる「大陸反攻」という言葉。時代の緊迫した空気は日常生活の中にも伝わってきている。しかし、政治とは異なるところで抱え込んだ思い、そうした機微を包み込むように穏やかな映像にはしんみりと感じ入る。
【データ】
監督:侯孝賢
脚本:侯孝賢、朱天文
1985年/台湾/138分
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