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2007年10月24日 (水)

NHKスペシャル「学徒兵 許されざる帰還~陸軍特攻隊の悲劇」をみて

 10月21日(日)放映のNHKスペシャル「学徒兵 許されざる帰還~陸軍特攻隊の悲劇」をみた。飛行機の整備不良等で生還した特攻隊員が少なからずいたが、彼らを隔離収容する振武寮というのがあったのは初めて知った。寮の責任者だった陸軍の元参謀が戦後になって受けたインタビューのテープが流されていた。みんな突っ込んで帰ってこないという前提だった、と彼は語る。だけど、何であなたは生き残っているの?という素朴な疑問は視聴者すべての頭に浮かんだことだろう。

 特攻は志願によるという建前がありつつも、実際には選択の余地などなかったことは番組中の証言者も語っていた。「俺も後から続く」と言って送り出した指揮官のほとんどは戦後も生き残った。敗戦後、特攻の発案者とされる海軍の大西瀧治郎は自決し、沖縄で航空戦の指揮を取っていた宇垣纏は最後の特攻に出て散ったが、番組に登場した菅原道大も含め陸軍で責任を取って自決した者は皆無である。

 保阪正康『「特攻」と日本人』(講談社現代新書、2005年)によると、特攻第一号は昭和19年10月の台湾沖航空戦で、海軍の第二十六航空軍司令官・有馬正文。46歳だった。彼はもともと年齢の高い順に死ぬべきだと語っていたらしい。しかし、彼のことが一般向けに喧伝されることはなかった。彼を称揚することはすなわち、高位の軍事指導者から率先垂範すべきということになってしまうからだ。平気で若者を使い捨てにして、それを志願という建前で正当化する態度には卑しさを感じてしまう。

 特攻のためには短期間で複雑な操縦方法をマスターせねばならないため、学徒出身者が多くを占めた。番組で流れたテープの中で例の元参謀は「学徒出身者には、口には出さないが、特攻には承服しかねるという態度を取る者が多かった。学問をやると死ぬのが怖くなる」という趣旨のことを語っていた。無論、死ぬのは怖い。しかし、彼らはだからイヤだというのではない。同じ死ぬにしても、何のためなのか、その意味を納得させて欲しいという当然のわだかまりを抱えていたはずだ。

 吉田満『戦艦大和ノ最期』(講談社文芸文庫、1994年)に同様の話があったような気がして、本棚から引っ張り出した。46~48ページに線を引っ張ってあった。何のために死なねばならないのか? 海軍兵学校出身者は、国のために死ぬのは当然だと言う。対して学徒出身士官は、自分の死を普遍的な価値と結び付けたいと反論し、殴り合いになった。その場を収拾した臼淵大尉のこんな言葉を吉田は書きとめている。「進歩のない者は決して勝たない。負けて目ざめることが日本の為だ。…敗れて目ざめる、それ以外にどうして日本が救われるか。…俺たちはその先導になるのだ」。このあたり、読みながら目頭が熱くなって、手もとにあったシャーペンで印を付けておいたのを思い出した。

 保阪の前掲書では、特攻で突撃した学徒・上原良司の遺稿への思い入れが語られている。上原はこう記していた。権力主義の国家は最後に必ず敗れる。イタリアのファシズムも、ドイツのナチスも倒れた。自分の信念が正しかったことが証明されるのは祖国にとって恐るべきことだろうが、自分自身にとっては限りなく嬉しい。こんな思いを持ちながら彼は死んでいった。

 臼淵大尉にせよ、上原にせよ、拒否することのできない、それこそ不条理としか言いようのない自らの宿命に対して、自分をいったん離れた視点から意味付けをしようというもがきが見て取れる。戦争を、肯定・否定というロジックで後知恵でくくるのは簡単だが、それでは上っ面だけになって見えてこない苦衷をこそ汲み取るべきだろうし、そうした問題意識で保阪の前掲書も書かれている。

 しかし、正直なところ、もどかしくも感じる。彼らの死を率直に受け止めたい。だが同時に、戦後教育を受けた私の頭の中には、戦没者の慰霊→軍国主義賛美になりかねない、という飛躍した感覚がしみついてしまっている。そうした刷り込みを振りほどくには手間がかかりそうだ。

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