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2007年9月 5日 (水)

ワーキングプアについて

 若き日の鎌田慧が北九州の飯場に潜り込んで書き上げた『死に絶えた風景』(ダイヤモンド社。後に現代教養文庫、1994年、版元倒産)が刊行されたのは1971年のことだった。ピンハネ、低賃金による拘束、そして使い捨て──這い上がる可能性すら完全につまれてしまったアリ地獄のような困窮状態を読み、私自身がまだ生まれてもいない頃の話だが暗澹たる気持ちになったのを覚えている。

 貧困から這い上がることの難しさという点ではアメリカが世界でもダントツだろう。バーバラ・エーレンライク(曽田和子訳)『ニッケル・アンド・ダイムド──アメリカ下流社会の現実』(東洋経済新報社、2006年)は、ジャーナリストである著者が経歴を隠して一定期間、ウェイトレス、清掃婦、スーパー店員などの仕事に就いた体験を記した潜入ルポである。少々あざとくてイヤな感じがしないでもないが、安定した中流生活に馴染んでいた著者のカルチャー・ショックが素朴に浮き彫りにされ、そこが一つの読みどころとなる。たとえば、同僚が1日40~60ドルの簡易宿泊所に泊まっていると聞いて、なんと無駄なことをしているのかと驚く。自分は1月500ドルの部屋を見つけたのに、と。しかし、著者の場合は敷金などまとまった初期費用を予め用意できたからであり、その日暮しの収入しかない同僚にはできない相談であった。貧しさゆえに足もとを見られて節約すらできない、こうした外部からはなかなか気付きづらい日常的なことを一つ一つ描き出していく。

 こういったことは、残念ながら過去のことでも海外のことでもない。つい最近でも、某派遣会社が「データ装備費」なる名目でピンハネしていたり、厚労省調査でネットカフェ難民5千数百人(調査には必ず漏れがあるから潜在的にはもっといるのではないか)という数字が報じられたりしている。社会的弱者にしわ寄せされる構造的問題は、装いを新たにしているだけで基本的には解決されないままである。

 まさに問題となっている今現在の当事者に直接インタビューして生の声を拾い上げているのが雨宮処凛『生きさせろ!──難民化する若者たち』(大田出版、2007年)である。雨宮自身、フリーターとしてイヤな思いをした経験があり、また弟が企業で使い捨てにされて体を壊した経緯も綴られていて、それだけ共感的に話を引き出している。ネットカフェ難民の問題も取り上げているほか、派遣労働の実態など、かつての飯場のシステムを思い起こさせる。雨宮自身の経歴からすれば当然だが、メンタル系の問題を抱え込んでしまった人への思いやりは優しい。「もやい」というNPOの活動を取り上げて、いざとなった時に生活保護を申請するノウハウを紹介しているのは実践的だ。

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コメント

■政財界の有識者にならって労働者の努力が足りないと報道するマスコミ連中…。生存権に一番かかわる失業貧困問題を問題視する事なく労働者に押し付けたままのマスコミや政財界。

○【2009年4月期有効求人倍率(パート雇用含む)全国平均0.46倍】
http://www-bm.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/ippan/2009/04/hyou6.html

○【求人は有り余る程あり売り手市場なのに労働者は「紹介される業種は不安定な仕事ばかり」と消極的】
http://sankei.jp.msn.com/life/lifestyle/090110/sty0901102118

○【甘えるな!!元派遣社員…仕事えり好み覚悟サッパリ。かつての厚遇に未練】
http://www.zakzak.co.jp/top/200901/t2009012736_all.html

■グローバル化によって国の枠を越えて製品が飛び交い、又、途上国との価格競争(産業の奪い合い、仕事(雇用)の奪い合い競争)にさらされ、世界各国で労働力が有り余り、失業が当たり前のグローバル化社会になりつつある。
今の政財界は、労働者に就業(雇用)や生活の責任を押し付けたままだが、グローバル化によってでも、以前と変わらず、労働者層が皆雇用を得られ健全な社会生活を保っていられると思っているのか?
グローバル化した社会では失業貧困が当たり前になります。それを無視した政財界有識者の数々の発言に、えげつなさを感じます。

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《なぜ、改革をするのか?…構造改革の裏の主旨》

●【経済財政政策担当大臣の竹中平蔵氏の論文、発言】
「所得再配分という名の搾取がまかり通っている。」「いまの社会システムは結局、困ったことがあったら人からもらえという社会なんです。『所得再配分』という制度を使って強奪を正当化するシステムなんです。」(『Voice』平成11年1月、7月号、PHP研究所)

●【経済財政政策担当大臣の竹中平蔵氏の論文】
「フロンティアの時代には能力がありかつ努力を重ねて高所得を得ている人々を讃える税制が必要だ。…中略… 最高所得税率水準としては当面40%程度を目指すが、その際、法人税率と同水準にするという点にもう一つのポイントがある。また将来的には、完全なフラット税、更には人頭税(各個人に対し、収入に関係なく一律に課せられる税)への切り替えといった究極の税制を視野に入れた議論を行うことも必要だろう。」『日本の論点'99(文藝春秋、1998年11月10日発行)』

●【総合規制改革会議、議長の宮内義彦氏の論文】
「所得税をさらに引き下げつつできるだけフラット化するとともに、相続税も引き下げることが望ましい。」
(『週刊東洋経済』2001年3月17日号)

●【経済財政諮問会議、議員の牛尾治朗氏の発言】
「(雇用の)流動化を図らなければならない。もはや働く側も終身雇用という意識はないだろう。終身雇用を求めるのは怠け者で能力、向上意欲がない人だ。」(2001年1月4日付中日新聞)

●【経済財政諮問会議、議員の本間正明氏の発言】
「日本の税率構造は国税と地方税を合わせ、従来の十五段階から昨年ようやく最高50%、最低5%の七段階になった。日本経済の活性化のために中堅層と高所得層でもう一段、税率の平準化を進めるべきだ。七段階を四段階にして最高税率は40%、最低は10%程度にするのが理想だ。」
「非常に少ない一部の人が高額所得を得ていることを一種の目標や活力の源とするように価値観を変えることが重要だ。」
「レーガン税制が社会の価値観を根底から揺り動かし大きな原動力になったのは確かだ。」(1999年11月1日付日本経済新聞)

○【小泉「市場原理主義」政権】
http://homepage3.nifty.com/nskk/kenkyu020.htm

●「格差が出ることは悪いとは思わない。成功者をねたんだり、能力のある者の足を引っ張ったりする風潮を慎まないと社会は発展しない」…小泉純一郎 第89代内閣総理大臣 世襲3世

●「『所得再配分』という名の搾取がまかり通っている」「完全なフラット税、人頭税を導入すべきである」「競争が進むとみんなが豊かになっていく」…竹中平蔵 元経済財政政策担当大臣 経済学者 パソナ特別顧問

●「格差があるにしても、差を付けられた方が凍死したり餓死したりはしていない」…奥田 碩 元日本経団連会長 元トヨタ自動車会長

●「所得税をさらに引き下げフラット化するとともに相続税も引き下げることが望ましい」「パートタイマーと無職のどちらがいいかということ」…宮内義彦 オリックス会長 元規制改革、民間開放推進会議議長

●「非才、無才には、せめて実直な精神だけを養っておいてもらえばいいんです」…三浦朱門 作家 元文化庁長官 元教育課程審議会会長

●「日本で払う給料は、間違いなく中国で払うより高い。労働者が、もの凄く安いコストで働いているというようには思わない」…折口雅博 グッドウィル グループ創業者 元経団連理事

●「派遣切り『社会が悪い』は本末転倒。『ロスジェネ』はただの言葉遊び」…奥谷禮子 ザ アール社長 経済同友会幹事

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■竹中平蔵氏の発言…「所得再配分という名の搾取…云々」「最高所得税率40%を目指す。将来的には完全なフラット税、更には人頭税(各個人に対し収入に関係なく一律に課せられる税)の税制を導入すべき…云々」
…此れでは、国の税収が極端に足りなくなり公共の社会福祉が破壊されます。もし人頭税を導入したら貧困労働者層への実質的な増税につながり、貧困が蔓延し福祉が滞る様な、もはや先進国とは言い難い日本社会になるのではないでしょうか。
労働をしない投資家や資産家富裕層を減税で増やし、投資や金融で高利貸し的に労働者層にたかり贅沢な暮らしをさせようとする事は、労働者層を悪戯に疲弊させ社会を衰退させる現象をもたらします。更に資本や金融投資に対して減税をすると大企業や資産家に円資産が極端に集まって経済構造が歪み、国内経済(GDP)が萎縮衰退してしまいます。
(格差の激しい途上国が国家としていまいち成長出来ない理由と同じ。富裕層が庶民の労働、生産エネルギーにたかり疲れさせて食い潰してしてしまっている社会。国民全体、庶民労働者経済の発展によっての経済大国の先進国になれず、搾取的支配によって富裕層が国家の成長を抑えてしまっている社会。)

投稿: | 2009年6月20日 (土) 16時25分

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