夏休みを思い出させる作品
夏休みシーズンに入ると、電車にガキンチョどもの姿が急に増える。通勤時間帯に乗り慣れていないヤツラの騒々しさ。寝ぼけまなこの私は少々いらつきながら、小学生の頃、電車に乗って遠出するこ自体がちょっとした冒険のようでワクワクしたなあ、などと妙に感傷にふけったりもする。
夏休みという日常のルーティンから切り離された時間は子供心に様々な心象を呼び起こし、ファンタジーの舞台として格好な題材となる。もののけたちとの交流を描いた宮崎駿監督「となりのトトロ」(1988年)、宇宙人との出会いをVFXを駆使してSF物語に仕立て上げながら、同時に小学生の夏休みの光景をも描きこんだ山崎貴監督「ジュヴナイル」(2000年)などを思い出す。小さい頃の心象風景をくすぐられるのか、ノスタルジックな気分にひたってしまう。最近観た根岸吉太郎監督「サイドカーに犬」(2007年)は一夏限り、かけがえのない擬似家族体験を描いているが、これも一種のファンタジーのようにも思える。
銀林みのる『鉄塔武蔵野線』(新潮文庫、1997年)は日本ファンタジーノベル大賞受賞作。鉄塔マニアの少年が、送電線の鉄塔にはそれぞれに番号がふられていることに気づき、第一号をつきとめてやろうとたどっていく。夏休みという非日常的な時間にかき立てられた少年の探究心。大人になってしまえば何でもないが、子供心には未知の世界を切り開いていこうというドキドキ感が良い。長尾直樹監督によって映画化されている(1997年)。なお、私自身は鉄塔マニアでも何でもないが、『東京鉄塔』(自由国民社、2007年)という写真集をパラパラめくっていたらなかなか風情があって面白かった。
湯本香樹実『夏の庭』(新潮文庫、1994年)は大好きな小説だ。人間が死ぬってどういうことなのだろう?と好奇心を募らせた三人の小学生が、ある一人暮らしの老人を見に行く。いわば、日本版「スタンド・バイ・ミー」という感じか。ところが、いまにも死にそうだったその老人は、少年たちに観察されていることに気づくと、生きる張り合いが出たのか、かえって元気になる。やがて親しくなった彼らは、戦争体験をきっかけに孤独な過去を背負った老人の死を見届けることになる。相米慎二監督によって映画化されている(1994年)。
小学生の夏休みを思い出させる作品として他にどんなものがあるだろうか?
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