「それでも生きる子供たちへ」
「殯の森」を観るつもりで渋谷に出た。上映館の前まで来て、今日は映画サービスデーで1,000円均一であることに気付く。前売り券を買ってあったので、500円損するというけちくさい計算が働き、別の映画を観ようと移動。「それでも生きる子供たちへ」を観ることにした。
世界中の子供たちの直面する問題に焦点を合わせて七人の監督が撮った作品をオムニバス形式で集めた映画である。ユニセフやWFPが後援に入っている。以前にも書いたことがあるが、ヒューマニズムを前面に押し出した作品というのが私は好きではない。正論を真っ向から振りかぶられると、その有無を言わせぬ暗黙の高圧にかえってうさんくささを感じてしまうからだ。それで、実はこの映画も観ようかどうしようか迷っていた。結論から言うと、観て良かったと思う。子供をテーマとしながら映像作りの工夫が凝らされており、それぞれの密度があまりにも濃くて上映終了時にはだいぶ疲れてしまったが。
冒頭のメディ・カレフ監督「タンザ」が題材に取り上げたのはルワンダの少年兵。時限爆弾のカチカチ…という音をリズムとして少年がまどろむ姿が、穏やかな笑みを湛えた寝顔だけに余計に哀しい。
エミール・クストリッツァ監督「ブルー・ジプシー」は、おそらくユーゴ内戦後のすさんだ状況を踏まえているのだろうか、少年院を出たり入ったりする子供に焦点を当てる。クストリッツァの作品としては他に「アンダーグラウンド」を観たことがあるが、ブランスバンドがブカブカ鳴る中みんなが忙しげに騒ぎまわるのが特徴的。コメディータッチのバカ騒ぎと少年の抱えたものとの対照には、かえってやるせない気持ちになってしまう。
スパイク・リー監督「アメリカのイエスの子ら」の主人公はエイズに感染した少女。湾岸戦争帰りでヤケッパチになった父、その影響でヤク中となった母。両親とも娘のことを真剣に思っているのだが、悪循環に陥ってなす術がないのがつらい。少女が、エンカウンター・カウンセリングであろうか、自身の心を打ち明けて孤立感から脱け出せそうな場に入ることができたところで何とか希望をつなぐ。
カティア・ルンド監督「ビルーとジョアン」、ステファノ・ヴィネルッソ監督「チロ」は両方ともストリート・チルドレンを取り上げる。暗い話が多い中、「ビルーとジョアン」はめげそうになっても前向きなところがあってホッとした。「チロ」は影絵とパーカッション・アンサンブルとの組み合わせなど映像の演出がおもしろい。
ジョーダン・スコット&リドリー・スコット監督「ジョナサン」。ジョーダンはリドリーの娘らしい。神経症になった報道カメラマンが、戦場で子供たちと一緒になる幻想を見るという話。森の中を駆け抜けていく時の弦楽合奏が素晴らしくて耳に残った。
最後はジョン・ウー監督「桑桑(ソンソン)と小猫(シャオマオ)」。貧富の格差が広がった中国において、金持ちだが両親の離婚に翻弄される桑桑と、育ての親を事故で失ってしまった捨て子の小猫とを対比させる構図。泣き所は用意してあるものの、ありがちなストーリー構成であまり感心しない。二人の少女の愛くるしさが、境遇の違いに応じてそれぞれよく引き出されていたのでよしとしよう。
【データ】
英語タイトル:All the Invisible Children
イタリア・フランス/2005年/130分
(2007年7月1日、渋谷、シネマライズにて)
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