与那原恵『美麗島まで』
与那原恵『美麗島まで』(文藝春秋、2002年)
著者の小学生の頃というから1970年代のことだろうか。池袋近く、長屋で人々が肩を寄せ合って暮らす椎名町の情景は、どことなく戦後を引きずった雰囲気を感じさせる。カタコトの日本語を話すカワカミさんという朝鮮半島出身のおじいさんが印象深い。
親の反対を押し切って東京へ来た父・与那原良規と母・南風原里々。早くに亡くした両親の足跡をたどる旅は東京の下町から始まって沖縄、台湾をめぐり、再び東京に戻ってくる。著者自身は東京生まれの“沖縄二世”で、沖縄生まれの人からは「しょせん、ウチナンチューではないよ」と言われてしまうらしい。だが、彼女自身のルーツ探しの旅は沖縄現代史と密接に絡み合い、そこには歴史を他人事ではなく感じ取る思い入れが静かに、そして強く脈打っている。異文化を抱え込んだ植民地帝国・日本において越境的な道のりをたどった家族の物語。なお、タイトルにある“美麗島”とは台湾の別称。
与那原恵の本はあらかた読んでいる。ありがちな構図で物事を捉えてしまいかねないところを、彼女自身の感じ方を前面に出していくのが良い。現代の世相を映し出す事件を取り上げた『もろびとこぞりて』(柏書房、2000年)など好きだ。本書も自身の家族がテーマなだけに、政治色のない沖縄現代史として読みごたえがあるばかりか、ほのかな感傷もさそう。
カバー写真、若き日の母・里々の表情は凛々しく美しい。白地に青の装丁は、目鼻のくっきりとした南国風の顔立ちを清潔な感じに際立たせて目を引く。南伸坊の手になるらしい。このセンスと、あのおにぎり顔とのギャップに驚いた。
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