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2007年6月23日 (土)

東京都美術館「サンクトペテルブルク ロシア国立美術館展」

東京都美術館「サンクトペテルブルク ロシア国立美術館展」

 十八世紀、とりわけ十九世紀ロシアといえば、文学でも音楽でも著名な名前はすぐにいくつか思い浮かぶ。しかし、絵画という分野は盲点だった。私の脳裏ではいきなりシャガールやカンディンスキーから始まり、続くのは清く正しくたくましい労働者男女を描いた“社会主義リアリズム”。このたび開催された「ロシア国立美術館展」では、これまで日本ではあまり知られていなかった帝政期ロシアの絢爛たる美術作品を目にすることができる。

 全般的に言って、私がロシアに対してイメージとして持っていた土俗性とは異なって、すっきりした雰囲気の作品が多いという印象がある。肖像画が多く描かれているが、イコン作家出身の画家が多いのはいかにもロシアらしい。カルル・ブリュローフ作「ウリヤナ・スミルノワの肖像」に描かれた清楚な美少女のおだやかな眼差しにはついつい見とれてしまった。風景画も多く、早期の作品群には都市を描いたものが目立つ。巨大建造物を遠景に配置して都市を大きく俯瞰するような構図。ロシア近代化のシンボルとして積極的に描かれたのだろうか。イメージ的に、ムソルグスキー「展覧会の絵」の最後をしめくくる「キエフの大きな門」のメロディーが頭の中で鳴り響いていた。イヴァン・アイヴァゾフスキーの描く海景画は、ドラマを感じさせる雄大な構図と光の色合いの美しさが相俟ってとてもカッコいい。十九世紀後半になると、中央ロシア、さらには中央アジアにかけての平原や針葉樹の目立つ荒々しい自然を題材とした風景画も描かれている。天地の大きく広がる大地に道が一本果てしなく続く様を見ながら、「展覧会の絵」の「ビドロ」やボロディン「中央アジアの草原にて」のメロディーを頭の中で反芻していた。

 先日、日本経済新聞の読書面で印刷博物館の樺山紘一館長も書いておられたが、展覧会の図録というのはなかなか素晴らしい。私は興味をそそられた展覧会の図録はできるだけ買うようにしているが、「ロシア国立美術館展」の図録も上質紙にフルカラー印刷、三百頁を超える大部なのに、税込みで二千百円という安価。普通の画集だったら五千円は軽く超えているだろう。しかも、今回のように邦語文献の少ないジャンルでは専門家による解説論文は貴重。とりわけ、沼野充義の解説は、ピョートル大帝の近代化改革以来ロシアを二分してきた西欧派とスラヴ派とのアイデンティティーの葛藤を軸に思想史・文化史の脈絡でロシア絵画の位置付けを簡潔にまとめてくれており、とても勉強になった。
(2007年7月8日まで開催)

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