雑談を取りとめなく、音楽
「サイドカーに犬」のエンディングにYUI「understand」という曲が流れた。映画そのものの余韻もあってしんみりと耳に残った。上映されていたアミューズCQNからエスカレーターで降りていくと、建物の壁面はガラス張りなので、夕方、渋谷の街の空にかかる雲のあかね色に染まった色合いが目に心地よくしみいってくる。さっき耳にしたばかりの曲にあった「夕暮れにのびる影──」というリフレインが何とはなしに思い返され、YUIのCDを探しにタワー・レコードに寄ることにした。
「UNDERSTAND」「MY GENERATION」の収録されたシングルとデビューアルバムの「FROM ME TO YOU」を聴いてみた。中途半端に英単語まじりの歌詞はあまり好きではないし、編曲で聴かせているのかなという感じもするが、聴き心地はなかなか悪くない。ジャケットの写真を観ると、このYUIという子は凛々しくてカッコいいね。子供っぽいあどけなさと芯の強さがあやういバランスを取っている感じというか、そういう演出なんだろうけど、様になっている。
サウンドトラックのフロアをふらついていたら、大野雄二のベストコレクションが試聴機にかかっていた。以前、このブログにも書いたが、岩井俊二監督「市川崑物語」を観たところ、大野の作曲した「犬神家の一族」のテーマ曲が流れていた。なめらかな弦楽合奏のメロディーを耳にして無性になつかしい気持ちをそそられ、市川崑の作り直し版「犬神家の一族」をついつい観に行ってしまった。残念ながら、大野のベストコレクションにこの曲は収録されていなかったが、「ルパンⅢ世」やNHKでやっていた「小さな旅」(最初は「関東甲信越小さな旅」というローカル番組だったが、いつの間にか「小さな旅」として全国版になっていた。割合と好きでたまに観ていた)のテーマ曲を聴くことができた。それぞれ雰囲気は全く違う。ただ、「犬神家の一族」のメロディーを意識しながら聴いていたら、メインテーマは違うのだが、伴奏に流れる弦楽の雰囲気がよく似ている。大野雄二の曲で私の気持ちに引っかかっていたのは、この弦楽のメロディーなんだなと改めて自覚された。
ついでにタワー・レコード新宿店にも寄った。クラシックのフロアに行って試聴機を見ていたら、クラウス・テンシュテット指揮によるワーグナーの管弦楽曲集があった。以前にリヒャルト・シュトラウスが好きだと書いたので容易に想像されるだろうが、ワーグナーも好きだった。「ワルキューレ」はコッポラの「地獄の黙示録」以来、定番だな。私が一番好きなのは「ジークフリートの葬送行進曲」。荘重な旋律が体の奥にまでズシンと響いてくるのがすごくいい。かつてヒンデンブルクが死んだ時、ヒトラーが葬儀に演奏させ、文字通りワイマール共和政を葬送した曲でもあるが。
「Barber's Adagio」も試聴機にかかっていた。バーバーの「弦楽のためのアダージョ」は通常、弦楽合奏として演奏されるが、声楽やフルートなど別の楽器による様々な演奏も収録して、この曲の魅力を一層引き出したのがこのCDだ。私が買ったのはかれこれ十年くらい前のように思うが、復刻されたのだろうか。ジャケットもいい感じ。この曲はオリバー・ストーンの「プラトーン」で一躍有名となったが、哀愁が静かに胸にしみわたってくるメロディーに泣けてくる。
タワレコ新宿店にはミニマリズムの熱烈なマニアがいるのだろうか。来るたびに、フィリップ・グラスやスティーヴ・ライヒの特集が目につく。今日もライヒが試聴機にかかっていた。「Tehillim」の聴きなれぬヘブライ語や「Different Trains」の不安をかき立てるようなリズムについつい聴きほれる。両方ともうちに帰ればあるのだが。ライヒで私が一番好きなのはやはり「十八人の音楽家のための音楽」だ。たゆたうような厚みのある音の重なりに身を委ねていると何とも言えず心地よい。
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