「赤い文化住宅の初子」「16[jyu-roku]」
「赤い文化住宅の初子」
初子(東亜優)は兄(塩谷瞬)と二人暮らし。お父さんは借金を抱えて蒸発し、苦労を重ねたお母さんは病気で世を去った。気持ちのすさんだ兄は同僚を殴って職を失い、初子は高校進学を断念して働かなくてはならない。だけど、初子はそういう事情を誰にも話さない。一緒に高校へ行こうと勉強を教えてくれていた三島君(佐野和真)は戸惑うばかり。
お母さんが好きで読み聞かせてくれた『赤毛のアン』。だけど、初子が言うには「アンは良い夢ばかり見ているから好きじゃない。」
ホームレスとなっていたお父さん(大杉漣)が初子を見かけ、家に戻ってきた。しかし、妻はすでになく、息子からは「お前のせいだ、出て行け!」となじられる。「いざとなったら家族があると信じていたからこれまで頑張ってこれたのに…」。絶望した彼はアパートに火をかけて焼け死ぬ。『赤毛のアン』も一緒に灰となった。
初子たちは大阪に行くことになり、見送りに来てくれた三島君は『赤毛のアン』をプレゼント。大きくなったら結婚しようと約束する二人の姿は、一見したところあどけない純愛のハッピーエンドのようにも見える。が、素直に信じていた父や兄に振り回されてきた初子の姿を思い返すと、この約束もはかない絵空事に終わるのだろうなと容易に見当もつく。
たとえはかない望みでも、そこに拠り所を求めなければ、このつらい日々をやりすごすことはできない。大人たちからひどい言葉を浴びせられたり、恵まれたクラスメイトから“お情け”をかけられても、それを恨んだりひがんだりするのではなく、真面目に受け止めて戸惑っている初子の純朴さはいじらしくて胸を打つ。というよりも、もどかしくてイライラするくらい。だけど、裏切られても信じ続けるということは、ひょっとしたらそのこと自体が生きていく智慧であり、力なのかもしれない。
【データ】
監督・脚本:タナダユキ
原作:松田洋子(太田出版刊)
100分/スローラーナー/2007年
(2007年6月15日レイトショー、渋谷、シネ・アミューズにて)
「16[jyu-roku]」
「赤い文化住宅の初子」からのスピンオフ作品。この映画で主演を務めた東亜優(ひがし・あゆ)自身に注目し、田舎から上京して女優修行に戸惑う日々を描く。ドキュメンタリーというわけではないが、入れ子構造のように「赤い文化住宅の初子」のオーディションや撮影光景も挿入され、彼女の等身大の姿も重ね描きされているようだ。
彼女を追うように家出してきた少年(柄本時生)の抱える鬱屈感が気持ちにひっかかった。恋愛とかそういう感じではない。自分の居場所が見当たらぬ思春期の戸惑いとでも言ったらいいのかな。黄昏色の夕景の街中、走って逃げていく二人の後姿。レインボーブリッジが後景に浮かぶ寒々とした夜、水辺のベンチに腰を下ろした二人のかたい表情。そんなに深刻にならなくてもいいんだよ、と声をかけたくもなるが、あの年頃に自身が抱えた心情を思い出し、それが映像の雰囲気とシンクロしてちょっと身につまされたりもする。
東亜優は表情の揺れに初々しさがにじみ出ていてかわいらしい。「赤い文化住宅の初子」ではもともと感情の起伏に乏しい役柄だったのでかたい感じだったが、「16」では表情が豊かでこちらの方が彼女の魅力はよく出ているように思う。
【データ】
監督・脚本・編集:奥原浩志
76分/スローラーナー/2007年
(2007年6月17日、渋谷、シネ・ラ・セットにて)
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