最近読んだ本
ここ2,3週間ばかりの間に読み流した本の備忘録です。
太田直子『字幕屋は銀幕の片隅で日本語が変だと叫ぶ』(光文社新書、2007年)
映画は好きでよく観るので、字幕作りの裏舞台をのぞけるのかなと軽い気持ちで手に取った。ところが、意外に(と言うと失礼だが)字幕作りを通した日本語論として的を射ている。映像の速度の応じて字数を切り詰めねばならず意訳したり、文化的・文法的な違いをごまかしたり、放送禁止用語や観客の読解力低下という壁にぶつかったり、次から次へと降りかかる無理難題に工夫を凝らす姿が面白い。さすが字幕屋さんで、文章もリズミカル。クスクス笑いながら一気に読んでしまった。
氏家幹人『かたき討ち──復讐の作法』(中公新書、2007年)
“かたき討ち”とひとことで言っても色々なパターンがあったらしいし、事情も人それぞれ。典拠をしっかり踏まえて描き出された憤怒や悲哀は、“武士道”と一括されかねないイメージを崩し、そこが斬新で面白い。
西部邁『核武装論──当たり前の話をしようではないか』(講談社現代新書、2007年)
タイトルは“核武装”論だが、戦略論的な話ではなく、むしろそうした専門家的な議論の陥りやすい陳腐さをあげつらう。核武装という一つの極限状態を糸口とした、西部さんお得意の大衆民主主義批判。
佐藤一郎『新しい中国 古い大国』(文春新書、2007年)
歴史小説好きなら『三国志』はおなじみだろうし、ビジネスマンは沿海部の発展に関心が集中するだろう。しかし、中国は歴史と現代が分かちがたく絡まっており、断片を切り取っても中国は分からない。そうしたスタンスで雑学的に中国の全体像理解を手助けする。だけど、そんなに面白くはなかった。
恩田陸『図書館の海』(新潮文庫、2005年)
短編集。『夜のピクニック』や『六番目の小夜子』など長編小説の番外編的な作品も含まれている。恩田さんのタイプの小説は決して嫌いではないのだが、読みながらのれなかったのがなぜなのか我ながらよくわからん。
白石一文『すぐそばの彼方』(角川文庫、2005年)
次期首相の本命と目される代議士を父に持ち、その秘書を務める主人公。ただし、彼は精神的な不安定を抱えている。政界裏舞台の動きと、彼自身の人生上の転回とが同時進行する。主人公は内向的で、ストーリーにギトギトした黒さも華やかさもない。
佐藤正午『ジャンプ』(光文社文庫、2002年)
突然失踪してしまった恋人を探す男の話。彼女の行方を追いかけて手掛かりを集めることが、同時に彼女の気持ちの微妙な揺れを手探りすることにつながる構図となっており、なかなか読ませる。
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