タワー・レコードにしてやられた
渋谷のシアター・イメージフォーラムで「ロストロポーヴィチ 人生の祭典」を観たことは前回に書いた。この映画の後半で、ペンデレツキがロストロポーヴィチのために作曲したチェロ協奏曲を、小澤征爾指揮、ウィーン・フィルがレッスンしているシーンがある。この曲のCDがないかと帰りにタワー・レコードへ寄った。ロストロポーヴィチ追悼コーナーはあるのだが、お目当てのものは見つからず。代わりと言ってはなんだが、ペンデレツキ「ポーランド・レクイエム」がタワレコ特別版ということで二枚組み・1,500円で出ているのを見つけ、ついつい衝動買い。
タワレコの売場にはお薦め曲がいつも流れており、天井からぶら下がったモニターに曲名が表示されている。クラシックのフロアを物色しながらブラブラ歩いていたら、金管楽器が咆哮するドラマチックなメロディーが耳の中へ飛び込んできた。モニターを見あげると、ヨハン・デ・メイ(Johan de Meij)「交響曲第三番 プラネット・アース」となっている。知らない作曲家だ。しかし、身体にじかに響いてくるともう逆らえない。すぐにこのCDをつかみ取り、先ほどの「ポーランド・レクイエム」と一緒にレジへと直行。タワレコにまんまとしてやられたと妙に悔しいわだかまりを抱きながら。
デ・メイは1953年生まれ、オランダの作曲家。私が耳にしたのは「windy city overture」という短い作品。この曲も、「planet earth」も、高らかな音響に奥行きがあって、その盛り上げ方はまるで映画音楽のようだ。なお、NHKスペシャルで放映されていた「プラネット・アース」という番組を毎回欠かさず見ていたが、これとは関係ない。デ・メイは他にもトールキンの作品をテーマとした「交響曲第一番 指輪物語」というのも作曲しているらしく、興味津々。
タワレコで試聴して買い、それをきっかけにファンになってしまったアーティストが割合といる。ジェーン・カンピオン監督「ピアノ・レッスン」という映画があった。この映画そのものは特に好きでもなかったが、マイケル・ナイマンの流麗なメロディーはタワレコの試聴機で初めて知った。
スティーヴ・ライヒ「different trains」は出だしを聴いた瞬間に決まった。「18人の音楽家のための音楽」など、もともとミニマリズムが好きではあったのだが、それが確信に変わってしまった。
world’s end girlfriend「The lie lay land」。私は普段あまり聴かないタイプだが、たまたま試聴したのをきっかけにはまった。きしむようにノイジーな音響となめらかなメロディーとの微妙なマッチングには独特な世界観があって本当に不思議な曲だ。world’s end girlfriendはどうやら日本人らしいということ以外に正体はよく知らないのだが、CDはすべて買った。
ちなみになぜ「The lie lay land」の試聴機の前で立ち止まったかというと、飾られていたジャケットに視線が奪われたから。暗くぼんやりとしたイメージがすごく良い。描いたのは絵本作家の酒井駒子。本の装幀でも知られている。彼女の活躍はタワレコの試聴機をきっかけに初めて知ったことになる。存在を意識し始めると、彼女の手がけた本を書店で見かけるたびに手に取るようになった。こういう副産物もある。
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