「オール・ザ・キングスメン」
貧困階層の不満をバックに権力を握ったルイジアナ州知事ウィリー・スターク(ショーン・ペン)、彼が自らに対する弾劾決議案審議の成り行きを議場上方二階席から傲然と見下ろす姿が象徴的だ。不安と尊大さのないまぜとなったせわしない視線で議員一人ひとりの賛否をチェックしている。弾劾決議案は辛くも否決されたが、その直後、スタークは議事堂内で暗殺されてしまう。このカリスマ的政治家がのし上がっていく様子と、彼のために働きながらも振り回される新聞記者ジャック・バーデン(ジュード・ロウ)の抱えた葛藤とをこの映画は描いている。なお、1949年にも同タイトルの映画が製作されている(昔ヴィデオで観たはずなのだが、あまり覚えていない)。
この映画の設定でスタークが銃弾に倒れるのは1954年のこととなっているが、実在したモデル、ヒューイ・ロングが暗殺されたのは1935年である。ロングは州知事、連邦上院議員としてルイジアナ政界で独裁的に君臨し、そのポピュリスティックな人気を背景に時の大統領フランクリン・ローズヴェルトをおびやかすほどの存在であった。ロングについては三宅昭良『アメリカン・ファシズム──ロングとローズヴェルト』(講談社選書メチエ、1997年)に詳しい。
1930年代といえば、世界的にも既成政治に対する不満が共産主義やファシズムなど様々な形を取って噴出していた時期である。それは一種のカリスマ待望と結びついていた。スタークは当初、政治腐敗追及で名を上げた。そこに目をつけられて州知事選挙に担ぎ出されたものの、自分が単に利用されているに過ぎないことに気付く。開き直ってそれまでの愚直な政策演説をやめ、自らの怒りを率直に語りかけた。とりわけ業界と癒着した上流階級を標的とするアジテーションは大衆受けし、地滑り的な勝利を得る。権力を握った彼もまた腐敗とは無縁ではなかったが、「善は悪から生れる」と言い放つ。そこにはカリスマならではの確信犯的なすごみがある。「エビータ」(1996年)でのエヴァ・ペロンの描き方もそんな感じだった。アメリカ映画でカリスマ的政治家を描く場合の定型句という印象がある。
ショーン・ペンの存在感に改めて感心した。彼を初めて知ったのは「デッドマン・ウォーキング」(1995年)での死刑囚役だったが、開き直りと処刑間際のうろたえと表情をしっかりと演じ分けていたのをよく覚えている。「アイ・アム・サム」(2001年)での知的障害者役は自然で違和感なかったし、「リチャード・ニクソン暗殺を企てた男」(2004年)での内向的でセンシティヴな暗さも印象に強い。
【データ】
原題:All The King`s Men
監督:ロバート・ゼイリアン
原作:ロバート・ベン・ウォーレン『すべて王の臣』(新装版、白水社、2007年)
出演:ショーン・ペン、ジュード・ロウ、アンソニー・ホプキンス、ケイト・ウィンスレット他
アメリカ/2006年/148分
(2007年4月15日、新宿武蔵野館にて)
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