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2007年4月 4日 (水)

梅佳代『うめめ』

 昼休み、職場を抜け出してよく行く書店がある。ここは美術書のスペースがきちんと確保されているのでお気に入り。大型書店ほど量は多くないが、とりわけ写真集の棚がセレクトされた上で質的に充実しているので見やすい。

 私はカメラに関しては素人でよく分からないのだが、写真集を眺めるのは楽しい。ただし、それなりに値段がはるので気軽には買えない。面白そうなのがあっても衝動買いはできるだけセーブし、ここに通って何回か立ち見を繰り返しながら、ふと気持ちがその本とシンクロした時に買う(と言いつつも、植田正治の写真を再編集した『吹き抜ける風』(求龍堂、2006年)が新刊として出ているのを見かけた時には即決でレジに向かったが)。

 さて、お題に掲げた梅佳代『うめめ』(リトルモア、2006年)。出た当初から何となく面白そうだと思ってパラパラめくっていたし、木村伊兵衛賞を受賞したのも知っていた。しかし、買ったのはつい先週のこと。決め手は2枚の写真。

 一枚は、夏祭りの時であろうか、手にシャボン玉を浮かべた幼稚園くらいの女の子。特にかわいい顔立ちをしているわけではないが、首をかしげた笑顔が健康的にコケティッシュな良い感じで、つい見入ってしまった(断っておくが、私はロリコンではない)。

 もう一枚は、デパートの屋上、戦隊ものヒーロー、サイン会でのワンシーン。会議室用長机の前に背筋をピンとのばして座る着ぐるみのヒーロー(何という名前なのかは知らない)が、サインペンをしっかりにぎり、次のお客さんを待っている。デパート屋上のものさびれた雰囲気を思い浮かべて、やけに姿勢の良い戦隊ヒーローとのキッチュな取り合わせが妙におかしい。思わず吹き出してしまった。一人で笑っていると不審がられるので買おうと決断した次第。

 とにもかくにも、この『うめめ』、よくこんなシャッターチャンスを逃さなかったものだと感心する。別に大げさなものではない。ほほ笑ましいと言おうか、くすぐったいように笑える。

 木村伊兵衛賞を『うめめ』と同時受賞した本城直季『small planet』(リトルモア、2006年)も実際の風景をミニチュア模型のように撮るというアイディアは面白いが、それはど興味は引かれなかった。ここしばらくずっと気にかかっているのが中野正貴『TOKYO NOBODY』(リトルモア、2000年)。刊行されてからもう7年経つが、いまだに面陳されている。奥付をみるとすでに8刷。お正月やお盆の早朝だろうか、人間の誰もいない東京の各地を撮りためた写真集。よく見知っているはずの風景が違った容貌を見せており、その微妙な違和感が良い。手元に置いておきたいと思ってはいるのだが、なかなか買おうというインスピレーションがわかない。なぜなのか、我ながらよく分からない。いずれ買うだろうとは思うのだが。

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