「不都合な真実」
アメリカ発で異例なほどヒットしたドキュメンタリー映画としてはマイケル・ムーア「華氏911」を思い浮かべる。ノリがよくて確かに小気味よくみられた。しかし、ブッシュ政権批判というよりも人身攻撃に近い悪ふざけが目立つ。ドキュメンタリー映画として守るべき一線を越えて、単なるアジテーションに過ぎない。ブッシュ政権に何らシンパシーを感じていない私でも不快な後味の悪さが残った。こんなトンデモ映画がなぜ日本でももてはやされるのか理解に苦しんだ(と言いつつ、一部の情緒的反米知識層の存在がうすうす感じられたが)。
今度はゴアである。やはり民主党系である。あまり気は進まなかったのだが、私は話題になった映画はできるだけチェックするよう心がけている。そろそろ上映期間も終わりそうなので重い腰を上げた。
結論から言うと、意外によくできていた。観て決して損はしない映画だと思う。私が今さら言うことでもないが、地球温暖化をテーマとした啓蒙映画である。データを示したグラフや実際に環境が変化しつつある映像で迫られると、否応なしにその説得力に圧倒されてしまう。地球温暖化と言っても氷河期以来の周期的なものではないかという説もあることを半端な知識として知っていたが、グラフの異常な伸びを突きつけられてあえなく粉砕された。
観客を飽きさせないためには物語が必要である。データや映像だけでも十分質の高いドキュメンタリー映画はできるが、見慣れていない観客は退屈してしまう。そうならないためには、誰か主人公をフィーチャーして、その人物のライフストーリーと重ね合わせるのも一つのやり方だ。この映画にはゴアのプロモーション映画という雰囲気があって、ひょっとすると次の大統領選をにらんでいるのかなとも疑わせる。しかし、その点は割り引いた上で、政治ネタを織り込みながら工夫したのだと私は肯定的に受け止めている。
ゴアの好き嫌いは別として、一つのライフワークを持っている政治家にはやはり敬意は抱く。それにしても、アメリカの政治家というのはプレゼンが実にうまい。一般の人々に迎合しすぎず、高飛車にもならず、環境問題の啓蒙活動を行なう姿がさまになっていた。
【データ】
原題:An Inconvenient Truth
監督:デイビス・グッゲンハイム
出演:アル・ゴア
アメリカ/2006年/96分
(2007年3月31日、日比谷・みゆき座にて)
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