「ロストロポーヴィチ 人生の祭典」
先週の4月27日、チェリスト・指揮者として世界的に著名なムスティスラフ・ロストロポーヴィチが亡くなった。80歳だった。この作品の日本上映が始まった矢先のことだ。原題は“Elegy of Life : Rostropovich, Vishnevskaya”となっており、ロストロポーヴィチばかりでなく、夫人のヴィシネフスカヤと二人を等分にテーマとしている。周知の通り、ガリーナ夫人もまた世界的に広く知られたソプラノ歌手である。迂闊なことに上映が始まるまで気付いていなかったのだが、アレクサンドル・ソクーロフ監督の手になるドキュメンタリー。
私はショスタコーヴィチが昔から好きだったので、この二人の演奏を収録したCDをそれぞれ何枚かずつは持っている。だが、二人のパーソナリティーを窺い知るのは初めてだ。ロストロポーヴィチはお茶目で陽気。おどけてみせたり、インタビューには早口でまくし立てるかと思うと、演奏する時の目つきは険しい。落ち着かないが、エネルギッシュ。何よりも愛嬌があって、地位や身分にかかわらず誰でも引付けてしまう。やさしい音楽家一家に生まれ育った天真爛漫な才能ならではの持ち味である。
夫のはしゃぎぶりに対して、ヴィシネフスカヤはその落ち着き払ったたたずまいが印象的だ。女帝とでも言おうか、傲岸にすら感じさせる雰囲気はむしろ怖い。しかしながら、語りを聞くと非常にしっかりしている。彼女は両親から事実上捨てられ、祖母のもとで貧しい生活を強いられた。専門の音楽教育を受けないでボリショイ劇場の舞台に立った稀有な人である。ロストロポーヴィチの明るさは魅力的だが、それ以上にヴィシネフスカヤの硬い表情の裏に何があるのか、そちらの方に興味がひかれた。たしか『ガリーナ自伝』が翻訳されているはずだから読んでみよう。
【データ】
監督・脚本:アレクサンドル・ソクーロフ
出演:ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ、ガリーナ・ヴィシネフスカヤ、小澤征爾、クシシトフ・ペンデレツキ
2006年/ロシア/101分
(2007年4月30日、渋谷、シアター・イメージフォーラムにて)
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