『鴨川ホルモー』『夜は短し歩けよ乙女』
売場の書店員による投票で選ばれる本屋大賞が来月に発表される。今年で四回目。過去の受賞作を振り返ってみると、第一回の小川洋子『博士の愛した数式』(新潮社、2003年)は私も好きな作品だった。第二回の恩田陸『夜のピクニック』(新潮社、2004年)は、ストーリーとして嫌いではないはずなのだが、読んだ時に気持ちがのらなかったせいか、読みさしのままほったらかし。第三回、リリー・フランキー『東京タワー~オカンと、ボクと、時々、オトン』(扶桑社、2005年)の評判は高いが、私は未読。
今回の候補作のうち、万城目学(まきめ・まなぶ)『鴨川ホルモー』(産業編集センター、2006年)と森見登美彦(もりみ・とみひこ)『夜は短し歩けよ乙女』(角川書店、2006年)の二冊を今週読んだ。いずれも、京大出身者による京大を舞台とした物語。主人公のそれこそ妄想が暴走しかねない片思いを軸とした珍妙な筋立てという点でも共通する。また、二人とも冗談を織り交ぜた説明口調の文体だが、テンポがいいのでくどくない。
『鴨川ホルモー』
ひょんな行きがかりで京大青竜会なる正体不明のサークルの新歓コンパに顔を出した安倍。入るつもりはさらさらなく、食うだけ食っておさらばしようと思っていたが、居合わせた鼻の美しい女性に一目ぼれ。そのままズルズルと入会してしまう。ここは実は陰陽道のロジックに則って運営されており、他大学にある同様のサークルと式神を使って戦わねばならない。安倍は失恋の絶望感から脱会しようとするのだが…。読みはじめ、何やらグダグダした学園生活ものかと思っていたら、意外な展開でなかなか面白かった。
『夜は短し歩けよ乙女』
黒髪が美しくお酒の大好きな世間ばれした少女と、彼女に一目ぼれした青年。二人のモノローグが交互に繰り返されながらストーリーが展開される。稀覯本を求めて我慢比べ大会に参加したり、シュールにドタバタした学園祭でゲリラ演劇に巻き込まれたりと、その奇抜さが面白い。何よりも、清楚な落ち着きと、天真爛漫で独特な世界とをあわせ持った少女が不思議に魅力的である。万人受けする小説ではないので大賞は取れないだろうが、私は結構好きだ。
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