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2007年3月26日 (月)

『知られざるジャパノロジスト──ローエルの生涯』

宮崎正明『知られざるジャパノロジスト──ローエルの生涯』(丸善、1995年)

 松本零士が槇原敬之と何やらもめているようだ。歌詞の盗作云々、証拠を出せ云々と泥仕合にはまりこんでいる。松本零士の作品はむかし好きだった。と言っても、世代がだいぶ離れており、『銀河鉄道999』を再放送で観たり、漫画を復刻版で読んだりという形なので、すでに過去の人だと思っていた。なつかしい人がいまだに意気軒高だなあとほほえましく思っている。

 去年、国際天文学連合の申し合わせにより、太陽系を構成する惑星のうち冥王星が準惑星(dwarf planet)に格下げされることになった。スイ・キン・チ・カ・モク・ド・テン・カイ・メイ、と覚えたが、最後のメイがなくなるわけだ。“惑星”の定義を満たさないことが理由らしいが、この報道を聞いた松本零士が「夢がこわれる!」と激怒していた。冥王星は、『宇宙戦艦ヤマト』では前線基地が置かれ、『銀河鉄道999』では太陽系最後のターミナル・ステーションと位置づけられていた。宇宙の無限な広がりへいま旅立つぞ!という感じにシンボリックな意味合いが込められていたのである。

 前ふりが長くなったが、この冥王星の存在を数学的に予言したのが本書の主人公パーシヴァル・ローエル(Percival Lowell、1855~1916年、ローウェルとも表記)である。海王星の軌道計算には数学上の矛盾があることを証明して、さらに別の惑星Xがあるはずだと主張した。結局、自身で確認できないままに世を去ったが、彼の設立したローエル天文台のトンボーが1930年に発見することになる。ローエルはまた、火星の表面に見える細い線は人為的につくられた運河であると考え、火星人の存在を主張したことでも知られている。

 このようにローエルは、天文学をいろいろとお騒がせしたことで名高いが、もう一つ東洋学の研究者としての顔も彼が持っていたことは意外と知られていない。本書はローエルの日本研究に焦点をしぼりながら彼の生涯を描いている。

 ローエルはアメリカ出身で多くの知識人を輩出した裕福な一族の生まれ。大学卒業後、世界漫遊するなか、1876年に来日。腰を落ち着けて日本語を学ぶ。以来、1893年までたびたび日本へやって来て各地を歩き回り、日本に関する著作をいくつかものしている。とりわけ“The soul of the Far East”(1888年、邦訳あり)はラフカディオ・ハーンに日本へのあこがれを呼び覚ますきっかけとなった。それから、伊勢神宮に参拝するなど神道にも関心が強く、“Occult Japan, or, The way of the gods : an esoteric study of Japanese personality and possession”(1894年)を出版した。

 ジャパノロジストとしてこのブログでも以前に紹介したことのあるチェンバレンとも付き合いがあった。それから、やはりこのブログで取り上げたモースはローエル協会で日本についての連続講演を行なっているが、これはパーシヴァルの大叔父にあたる人の遺産をもとに学術普及を目的として設立された団体らしい。

 なかなか気まぐれな人物で、地図を見て形がおもしろいというだけの理由で能登半島へ行き、“Noto : an unexplored corner of Japan  ”(1891年)という本も書いている。本書の著者は金沢出身という縁でローエルに関心を持ったらしい。

 また、ローエルは朝鮮政府の遣米使節団の参事官となった関係でソウルに滞在したこともある。その折の見聞を“Chosön : the land of the morning calm : a sketch of Korea”(1885年)にまとめるなど朝鮮半島情勢にも関心を寄せていた。1886年の甲申事変について彼の書いた論説が本書に訳載されている。

 このローエルという人物もなかなかエピソードが豊富で面白そうなのに、彼を正面から取り上げた類書は本書しか見当たらない。工夫して書けば読み物として十分に興味深い評伝になるはずだと思う。

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