黒沢清監督「叫」
黒沢清監督「叫」
しみ出した海水でぬかるんだ東京湾岸の埋立地で、顔を海水につけられて窒息死した死体がみつかった。捜査にあたった吉岡(役所広司)は、自身も知らぬ間にこの事件に関わっているのではないかという疑いに苛まれる。そうした中、同じ手口の殺人事件が相次いで起った。それぞれの犯人はすぐにみつかるのだが、いずれも共通しているのは赤い服を着た正体不明の女(葉月里緒菜)に出会っていたこと。そして、吉岡の前にもまたその赤い服の女が現れていた…。
薄ぐもりの空の下、廃墟のような建物が建ち並び、ガラクタがあちこちに散乱したウォーターフロントの荒涼とした光景。古びた団地の殺風景な冷たさ。その中の一室、壁のコンクリートがむき出しになった寒々とした部屋。映画のラストでは、人の気配が感じられない道路を、ヨレヨレのコートを羽織った吉岡が険しい表情で歩いていく。
こうした無機質な冷たさを感じさせる風景の撮り方は、黒沢清の映像世界が持つ魅力の一つだ。今までの黒沢作品では、こういう雰囲気も含めて異世界の物語として受け止める気持ちで観ていた。それが今回、東京という現実の場所を舞台にとっても不思議な説得力を持っているのが非常に興味深い。映像で示された独特な東京論という趣きすら感じさせる。
ホラー映画としてはそんなにおもしろくはない。葉月里緒菜のクールな美形は、正体不明な恐ろしさを引き立ててはいるものの、その使い方にちょっと吹き出してしまうような違和感があった。ストーリーよりも、黒沢の陰りを感じさせる映像世界を堪能するという観方をすれば十分に観ごたえのある作品だ。
【データ】
監督・脚本:黒沢清
出演:役所広司、葉月里緒菜、伊原剛志、小西真奈美、オダギリ・ジョー、加瀬亮、他。
日本/2006年/106分
(2007年3月6日レイトショー、新宿武蔵野館にて)
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