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2007年2月26日 (月)

増田義郎『黄金郷に憑かれた人々』

増田義郎『黄金郷に憑かれた人々』(NHKブックス、1989年)

 イマジネーションが人間を駆り立てる力というのは本当におもしろい。それは、当人たちの思惑とは違った結果をもたらし、ひいては世界史の趨勢に大きく影響を与えてしまうことがある。いわゆる“大航海時代”に活躍した冒険者たちにもそうした幻影に翻弄された姿が浮かび上がってくる。

 豊かな富への渇望はエルドラド(黄金郷)のイメージを肥大化させ、果てはソロモン王の財宝を求めて“新大陸”を通り越して太平洋にまで漕ぎ出していった者すらいた(メラネシアにあるソロモン諸島の名前の由来である)。ただし、苦心惨憺の上にたどり着いた町が貧しかったので、逆ギレして住民を虐殺してしまうなどの悲劇が伴った。

 また、イスラム勢力から圧迫されているという自意識からは“プレスター・ジョン”(法王ヨハネ)伝説が生れた。これが、東にモンゴル帝国との通商を求める動きにつながったことはよく知られているが、西の海へと乗り出す動機の一つとしても働いていた。

 いずれにせよ、物質的な意味での欲望、宗教的な使命感、未知なる土地(テラ・インコグニタ)への憧れなどがないまぜになった群像劇には、粗野で目を背けたくなるような残虐さを伴いながらも強い魅力がある。

 ヴァスコ・ダ・ガマが初めてインドに到着した時のこと。彼が見せた贈り物を、現地の領主やムスリム商人たちは貧弱だとせせら笑い、相手にされなかったらしい。そこで、武威を示さねばしめしがつかないと判断し、本国から武装船団が送り込まれ、力ずくで領土を奪い取ることになったという。

 冒険者には一クセも二クセもある輩が多い。現地で指揮官たちが対立して内戦が起こったり、本国への反逆を疑われて追討軍が派遣されたりすることも珍しくなかった。コルテスはそうした追討軍をむしろ自軍に編入してアステカ征服に成功したが、後に本国に召還され、失意の余生を過ごした。インカを征服したピサロは政争に巻き込まれて暗殺され、ピサロの弟もまた反乱を起して処刑された。

 とりわけ、ロペ・デ・アギレという人物に興味を持った。彼は本国に対して不満を持つ者たちをまとめ上げ、本国派遣の査察官を殺した。そして貴族出身の者を王として担ぎ上げ、スペイン王国に対し独立を宣言(1561年)。しかし、疑いを持つ者や聖職者、さらには担ぎ上げたばかりの王までも容赦なく殺すなど恐怖政治をしいたため逃亡者が続出、最後は部下によって射殺されてしまった。狂的な誇大妄想に駆り立てられて未開地に独立王国を作ってしまうというあたり、コッポラの「地獄の黙示録」を髣髴とさせておもしろい。これだけでも小説のネタになりそうだと思う。

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