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2007年1月24日 (水)

「市川崑物語」「犬神家の一族」

◆「市川崑物語」

 私はこれまで市川崑の撮った映画をとりたてて意識して観てきたわけではない。すでに映画史上の過去の偉人という印象を持っている程度のものだった。今回は、あくまでも岩井俊二ファンとして観た。凝りに凝った映像美で特筆される新旧世代の二人がどのように絡むのか興味はあったが、予想していた以上に良かった。

 市川崑の生い立ち、ディズニーに衝撃を受けてアニメ作品から始まる映画人生、多彩なフィルモグラフィー、そして脚本家にして公私にわたるパートナーであった和田夏十(わだ・なっと)とのエピソードを織り交ぜ、時折岩井のコメントが入る。それもナレーションではなく、字幕で。静かだが跳ね上がるような鋭いピアノ音が特徴的な音楽はまさに岩井ワールド。しかし、それ以上に市川崑という人の魅力が生きている。

 「初めて話の合う人に出会った」という岩井のコメントが字幕に現れる。宣伝でもこの文句は使われている。しかし、観れば分かるが、これには続きがある。岩井自身の映像作りには市川崑を意識したところが多い。だから、話が合って当たり前。いや、岩井に限らず、市川の映像技法は多くの人に強い影響を及ぼしており、彼の名前を知らなくとも様々な場面で触れる機会がある。たとえば、あのジグザグな文字組みは「古畑任三郎」「新世紀エヴァンゲリオン」などでもおなじみだ。

 初めに述べたとおり、私は市川の名前をあまり意識していなかった。あの評判に高い「東京オリンピック」(1965年)も実は未見。それでも市川のフィルモグラフィーを振り返ってみると、結構観ていたことに改めて気付いた。「犬神家の一族」(1976年)、「ビルマの竪琴」(1985年)などは当然にテレビ放映で観ているし、最近では「八つ墓村」(1996年)、「どら平太」(2000年)なども映画館でリアルタイムで観た。そもそも中学校の時に連れられて観に行った「竹取物語」(1987年)が初めての市川体験だった。その時は市川の名前は知らなかったが、とにかく映像がきれいだと見とれたことはよく憶えている。

 市川と岩井の共同監督による「本陣殺人事件」の企画が進んでいるらしい。市川の魅力を再認識し、もともと岩井ファンだった者としては是が非でも観たい。
(2007年1月20日、新宿ガーデンシネマにて)

【データ】
監督・脚本・編集・音楽:岩井俊二
プロデューサー:一瀬隆重
製作:ロックウェルアイズ、角川ヘラルド映画、オズ
配給:ザナドゥー
2006年/日本/83分

◆「犬神家の一族」

 「市川崑物語」にこの「犬神家の一族」の撮影風景やオープニングが織り込まれており、とりわけテーマ曲が何となく懐かしい感じで耳に残り、つい観に来てしまった。ディテールを観れば色々な工夫はあるのだろうが、昔の「犬神家の一族」と比べて、ストーリーは勿論、全体的な雰囲気についてもそれほど変わり映えするわけではない。市川崑ファンが昔懐かしむという趣旨の企画なのだろう。それにしても、こんな陰惨でグロテスクな筋立てを、ある種の叙情性すら漂う映像世界に仕立て上げてしまう手腕には改めて驚かされた。
(2007年1月21日、新宿スカラにて)

【データ】
監督・脚本:市川崑
出演:石坂浩二、松嶋菜々子、富司純子、松坂慶子、加藤武、大滝秀治、中村敦夫、仲代達矢、他
2006年/日本/東宝/135分

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コメント

犬上家の一族の旧作は、初めて観た時、衝撃だったな~

投稿: みつぼ | 2007年1月24日 (水) 09時14分

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