「恋人たちの失われた革命」
1968年のパリ。いわゆる“五月革命”と呼ばれた学生運動が盛り上がる世相を背景として、芸術や恋に情熱を燃やした青年たちの夢見る日々と挫折を描く。モノクロームの映像は、レトロスペクティヴな懐かしさを感ずる人もいるだろうが、私には一時代昔の別世界を垣間見るような感じ。音楽は、登場人物の心情を点描するように時折ピアノが入るだけで、全体を通して静か。その分、青年たちの微妙な表情の動きを捉えようと意識が働く。とりわけ、フランソワ(ルイ・ガレル)とリリー(クロティルド・エスム)の表情はモノクロームの効果で陰影がくっきりと描かれ、目がさめるように美しい。
私は、学生運動に参加したことを自慢げに語る単細胞オヤジが大嫌いだ。そういうおっさんどものノスタルジーをかき立てる映画かと、実は警戒しながら観ていた。しかし、そのようなコンテクストからは切り離して観る方がいいだろう。青年期にありがちなシニカルな強がりと、一方で繊細な純情とがバランスの取れない葛藤、そこを青年たちの表情の揺れをパッチワークするように描いているところにはひきつけられる。とりわけ、リリーがパトロンのいるアメリカへ旅立ち、フランソワが一人部屋に残されてしまうあたり、ドラマとしての盛り上がりは極力排して淡々と進行しているだけ余計に、自分をその立場に置き換えて寒々とした部屋の雰囲気をつい想像してしまい、身につまされる思いがした。
評判が高いらしく、客席の大半は埋まっていた。しかし、正直に言うと、退屈だったことも否定できない(こういう作品を退屈だなんて言うと、鑑賞眼のある方々から軽蔑されそうだが…)。隣に座っていたカップルの女性は頻繁に座る姿勢を変えて落ち着きがなかったし、上映が終わった途端うしろからため息のもれるのが聞こえた。こうしたタイプの映画を観慣れない人にとって三時間にわたる拘束は拷問に近いのかもしれない。デートにはふさわしくないと思う。
【データ】
原題:Les Amants Réguliers
監督:フィリップ・ガレル
2005年/フランス/182分/モノクロ
配給:ビターズ・エンド
(2007年1月14日、東京都写真美術館ホールにて)
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コメント
学生運動に参加したことを自慢げに語る単細胞オヤジが嫌いだ…という記述を読んで、可笑しかった。ものろぎやそりてえる氏が普段、仕事などで関わっている世代がだいたい想像
できる。
私の場合、それどころではない。学生運動どころか、戦争に行った話を延々と聞かせれることが多いのだ。
投稿: | 2007年1月21日 (日) 11時28分